Chapter 1 of 7

檢非違使に問はれたる木樵りの物語

さやうでございます。あの死骸を見つけたのは、わたしに違ひございません。わたしは今朝何時もの通り、裏山の杉を伐りに參りました。すると山陰の藪の中に、あの死骸があつたのでございます。あつた所でございますか? それは山科の驛路からは、四五町程隔たつて居りませう。竹の中に痩せ杉の交つた、人氣のない所でございます。

死骸は縹の水干に、都風のさび烏帽子をかぶつた儘、仰向けに倒れて居りました。何しろ一刀とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、死骸のまはりの竹の落葉は、蘇芳に滲みたやうでございます。いえ、血はもう流れては居りません。傷口も乾いて居つたやうでございます。おまけに其處には、馬蠅が一匹、わたしの足音も聞えないやうに、べつたり食ひついて居りましたつけ。

太刀か何かは見えなかつたか? いえ、何もございません。唯その側の杉の根がたに、繩が一筋落ちて居りました。それから、――さうさう、繩の外にも櫛が一つございました。死骸のまはりにあつたものは、この二つぎりでございます。が、草や竹の落葉は、一面に踏み荒されて居りましたから、きつとあの男は殺される前に、餘程手痛い働きでも致したのに違ひございません。何、馬はゐなかつたか? あそこは一體馬なぞには、はひれない所でございます。何しろ馬の通ふ路とは、藪一つ隔たつて居りますから。

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