Chapter 10 of 10
西川の日記
西川の日記の思想に就いては私は直接に責任を負ふ必要を認めない。故に此等の文章に關する註釋は無用である。私は唯、今になつては、「自分は讀者に向つてそれだけでは理解し得ないやうな文章を提供するほど無責任な人間ではないつもりである」(三八五)と云へる山口生の豪語を信じないことと、「自分は自分の死ぬまでの間に、彼を主人公とした幾篇かの小説を書くことを堅く決心した」(同上)といふその決心が「堅い」ことに就いて疑を懷いてゐることを云つて置きたい。後の點に就いて云へば、私は、今にも降り出しさうにした夕立の雲の、いつの間にかあらぬ方に逸れてしまつてゐることを恐れるものである。(大正七年五月九日記)
●図書カード