Chapter 6 of 10
聖フランシスとステンダール
(一五一―一八〇) 私は今でもドン・ホアンを此處に用ゐたやうな意味の Classname に用ゐることを、それ自身に於いては不都合だと思つてゐない。しかしドン・ホアンそのものゝ心理に就いてはもつと深い解釋を下す餘地があり又必要があるに違ひないと思ふ。さうして我等はステンダール自身がドン・ホアンの味方ではなくてエルテルの味方を以つて自任してゐたことを記憶して置かなければならない(De l'amour LIX)。併しこの事實は彼が余の意味に於けるドン・ホアンであることの反證にはならないと思ふ。彼が L'amour la Don Juan, L'amour la Werther 等と名づけた命名の仕方が、既に彼の態度のドン・ホアン流であることを證明するものである。
序でながら Stendhal はベールがその崇拜するヰンケルマンの生地に因んで名づけた雅號である。これを佛蘭西風にスタンダールと發音するも、半ば獨逸風にステンダールと發音するも、共に大して差支はあるまいと思ふが、自分は大學の佛蘭西文學の教授H氏(佛蘭西人)の發音に從つてステンダールと云ひ馴れたのでこの方に從つたのである。Don Juan は New Standard Dictionary に Don hwan とあるのに從つた。