三
殴ろうと言い出したのは、矢木城介の方であった。もちろん私はとめた。
「ほっときなよ、あんなの。殴ったって仕方がない」
しかし城介は黙って、その方をにらんでいた。眼が凶暴にきらきら光って動いている。こんな眼の動かし方を、兄の栄介は絶対にしない。城介に特有のものであることを、私は彼とつき合い始めて、間もなく知った。双子と言っても二卵性の方なので、同じ時期に同じ胎内に育ったというだけで、兄弟みたいなものだから、顔かたちは似ていても、性格や考え方はかなり違っているのだ。
その遊園地は戦前のものなので、現在のそれのように大規模でけばけばしいものではなかった。しかし形としてはほぼ同じで、丘や凹地や庭があり、池には貸ボートが浮び、遊戯施設も一応ととのっている。売店ではおでんやキャラメル類を並べ、拡声器が〈東京ラプソディ〉や〈ユモレスク〉などのメロディを園内に流している。いつだったか私は城介といっしょに、そこに遊びに行った。多分その時も栄介を訪ねて不在だったので、私のところにやって来たのだろう。
東京の人口が少かったから、日曜日だというのに、入園者は多くはなかった。まばらというほどではないが、騒々しいという感じはほとんどなかった。でも遊園地というやつは、老人や子供、あるいは女連れならたのしめるが、欝屈した若者二人でのそのそ歩いても、くたびれるだけで決して面白いものではない。
城介が見ている方向に、小さな谷があった。谷には吊橋がかかっていた。その橋の中ほどで、若い女が二人、悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を上げていた。橋のたもとに学生姿の男が三人いて、女たちが渡りかけたのを見すまして、急にゆすぶり始めたのだ。どこの学生かは知らないが、彼等はあきらかに酒気を帯びていた。いや、酒気を帯びているというほどでなく、三人でビールの一本か二本か飲み、酔ったつもりになって気勢を上げている。その方に近かった。齢はおそらく私たちよりも若かっただろう。上着の上の方のボタンをわざと外して、気障というより、にやけた気分をぷんぷんと発散させている。
橋上の女たちとその学生たちと知合いでないことは、見ていた経緯からして、ほぼ見当がついていた。その若者たちも、折角遊園地にやって来たのに、何も面白いことがなくて、気分的にやり切れなくなったのであろう。
「殴ってやろうか」
城介は私に言った。冗談だと初め私は受取った。冗談めかしたような口調だったからだ。
「なぜ殴るんだね?」
「女をいじめてるからですよ」
城介は答えた。
「あ。あんなにゆすぶると、おっこちるかも知れない」
私たちは吊橋から谷に降りる中腹の、ベンチに腰をかけて、莨をふかしていた。そこは女たちを斜め上に見上げる位置になる。橋が揺れるので、女たちのスカートが動いて、白い下着や足が見えるのだ。私の眼を愉しませるために、女たちは立ちすくんで騒いでいるように見えたくらいだ。だから私はその時城介の気持をはかりかねた。
「大丈夫だ。切れやしないよ」
吊橋は鉄線で編み、その上に板を敷いてあるので、たとえ手を離してもおっこちる心配はない。女たちもそれを知っているのだろう。悲鳴がむしろ嬌声に聞えるのは、そのせいでもあった。
「甘えて騒いでるだけだよ。僕たちとは関係ない」
「関係ありますよ」
今度は押し殺したような声で、城介は言った。
「あいつら、さっきおれたちと売店の前ですれ違った時、ふんと言った調子で、唾を地面にはきやがった」
「ちょっと酔っぱらってるんだよ」
「今もさ、こんなこと、お前たちにゃ出来めえと、そんなつもりでやってんだ。あの与太学生ら!」
それは城介の邪推だと私は思った。彼は莨を地面に踏みにじり、のそりと立ち上った。本気でやるつもりだな。その時初めて判った。私はあわてて引きとめた。
「ほっときなよ、あんなの。殴ったって仕方がない」
彼は少時学生たちと吊橋の動きに眼を据えていた。私の手を振りはらって、いきなり斜面をかけ登った。
あっと言う間もなかった。二人は谷(と言っても三メートルほどのものだ)に突き落されて転落し、一人は腹を押えるようにしてうずくまった。橋の揺れがおさまるまで、城介は身構えたまま、三人の動きを監視している。女たちははげまし合うように、
「早く。早く!」
と呼び合いながら、雲か何かを踏むような足どりで、城介のいるたもとへ戻って来た。やはり烈しくゆすぶられて恐かったのであろう。するとあれは嬌声ではなく、今思うとほんとの悲鳴だったのかも知れない。転落した二人は服のほこりを払い、顔を見合わせながら、登っても一度闘おうかどうか、相談しているように見えた。しかし総じて彼等三人は、その動きからして、戦意を喪失していた。
女たちは城介に近づいた。かるく頭を下げ、何か言おうとした。
「…………」
その年嵩の方の女の頬ぺたに、城介はしたたかな平手打ちを加えた。女は頬を押えてよろめいた。あまり意外な光景だったので、私は思わず立ち上った。女をたすけるために、学生たちに飛びかかったのではないか。女の頬を張るなんて話が違うじゃないか。城介は私の方に振り向き、大声で叫んだ。
「早く。逃げるんだ!」
そして彼は背中を丸めて、一目散に走り出した。刑事に追われて人混みにまぎれ込もうとする掏摸のように。いや、追込みに入った競馬の騎手のように。――あるいはいたずらを見つけられて逃げる子供のように。追われるというより、逃げること自身が愉しくて仕様がない。そんな感じの走り方で逃げた。
「それで――」
庭を見おろしながら、栄介は言った。
「君も逃げたのか?」
「うん。いや。五十メートルほど走って、走りやめた。僕は何もしなかったから、逃げることはないと思ってね」
庭の垣根の向うを、ぶち犬がのそのそと這って歩くのが見える。
「こんなところにギプスを乾しとくと、犬や野良猫が便をしやしないかな。恰好が恰好だし――」
「便器に見えるのか?」
「いや。僕にはギプスに見えるけれど、犬や猫はそう見ないだろう」
栄介はしばらく考えていた。
「うん。それもそうだ。折角つくったものを、犬猫に使われちゃ困るな」
栄介は戸袋から背を離した。
「すまないが、縁側に引上げて呉れ。おれは腰が痛い」
彼はベッドに戻った。私は言われた通りにしてやった。生乾きの石膏はぶよぶよして、不気味な感触で、押せば指型がつきそうな感じがする。固まるのに、まだ二日や三日はかかるだろう。いくらか露悪的な気持で、私はそれを縁側に引きずり上げて部屋に運んだ。
「その時の背中の丸め方が、印象に強く残っているんだ」
椅子に腰をおろしながら、私は言った。
「彼はいつもあんな走り方をしたのかね?」
「君が走りやめたとすると――」
栄介は私の質問には答えなかった。
「城介はどうしたんだね?」
「そのまま遊園地の外まで、つっ走ったらしい。その次会った時、そう言っていた」
話している中に、その日の季節感がまざまざとよみがえって来る。
「そうだ。あれは割に暑い日だった。僕は独りになって、もう遊園地にいる気もしなくなって、外に出て生ビールを飲んだ。きっと初夏だったんだな」
「さっきは売店でおでんを売ってたと、そう言ったが」
「夏だって、おでんは売るさ。遊園地だもの。しかし――」
私は首をひねった。
「何だって城介君は、女の横面をたたいたんだろうな。たたく必要は何もないのに」
「次に会った時、訊ねてみなかったのかい?」
「うん」
「照れかくしだよ、あいつの」
鼻を鳴らすような発音をした。
「照れかくしって、何を彼は照れたんだね?」
「判らないかな。絹を裂くような女の悲鳴、かけ寄って見るとあわや落花狼藉――」
そして栄介は短い笑い声を立てた。
「やっつけてしまった後で、あいつは君という目撃者がいることに気付いたんだ。そこで城介はそれをごまかそうとしたんだよ。次に会った時、聞かなかったと言うのは、うそだろう」
「うん」
私は正直にうなずいた。
「聞いてみたら、惰性だと言って笑っていたね。しかしあの頃、僕たちは二十やそこらぐらいだろう。その年頃で、そんなことで照れるものかねえ」
「じゃ君はどう解釈するんだ?」
「よく判らないんだ。行動的だけれど、目的のない、盲目的な――」
私は言いよどんだ。
「まあ君がバスの階段を、がくがくがくとずっこけたようなもんだね。彼にとってどうしようもなかったんだろう。しかし彼は、その恰好の割には、足は早くなかったようだね。重心が前へ前へと動くのに、足がそれについて行けない」
「早くなかった。でも、おれよりは早かった」
栄介は遠くを見る眼付きをした。
「あいつは逃げ出すことで、いっぺん失敗したことがあるんだよ。ずっと前、中学生の頃だったけれどさ。うどん屋で食い逃げをしたんだ」
「つかまったのか?」
「いや。つかまりはしなかった。しかしそれがあいつの運命を狂わせた」
栄介は小さな溜息をついた。
「おれんとこの地方じゃ、めん類を食わせる店を、うどん屋と呼ぶ。そば屋とは言わないな。うどんが主で、そばはつけたりで、そばなんか食う人はあまりいなかった。暖かい地方だから、そばの出来も悪かったんじゃないか。味もまずかった」
「そうだね。あれは寒い地方の食い物のようだね」
「おれの中学校では、生徒がうどん屋に出入りしちゃいけないことになっていた。父兄同伴ならいいが、単独でだとか、仲間といっしょに入ると、ひどくうるさかった。しかしどうしてあの頃の中学教師たちは、うどん屋にこだわったのかな。別に女が給仕するわけじゃなし、うどんを食って帰るだけの話だからね。でもおれたちは出かけた。禁止されているからこそ、出入りしたくなるんだ。つまりおれたちは子供じゃないと、人に思われたいし、自分でも信じたかったんだろう。おい。またブランデーを注いで呉れ」
「僕にもそんなことがあった」
れいの場所からブランデーを取り出し、彼に注いでやり、私はついでに私のグラスにも充たした。
「袂のある着物をつくって呉れと、おふくろにせがんで、得意になって着て歩いた。すると近所の人が、狼が衣を着ているようだと、批評しやがった。それで当分着るのをやめたよ」
「当り屋という屋号の店だ。学校の近くにあった。うまい店でね」
栄介はブランデーを口の中でころがしながら、何かしばらく考えていた。
「関東ではうどんは馬子の食うものだと思っているが、あれはうどんの食い方を知らない。東京のはうどんの煮〆めだ。あちらのは、当時は手打ちで、薄味で、薬味には細い香ばしいネギが、大丼に出してあった。たしかあのネギの名を、ヒトモジと言ったかな」
その当り屋には、店番の婆さんがいた。当時のことで、婆さんと言っても、五十をすこし出たくらいだったか、七十前後だったか、もう彼には覚えがない。とにかくあの頃は、爺さん婆さんの年齢の幅が広かった。順々に年老いて婆さんになるのではなく、気分的に服装的に一挙にがくんと婆さんになったものだ。
その婆さんが、気が強過ぎたのが、いけなかった。あるいは度々そんなことがあって、婆さんも腹に据えかねていたのかも知れない。
城介たちも運が悪かったということも言える。
昼休みに中学校の塀を越えて、城介は級友たち三人と、あたりを見廻しながら、そっと当り屋に入った。当り屋の油障子には、的に当った矢の絵が、煙にすすけている。奥には大きな釜が据えられ、その下で薪がぼんぼん焚かれているので、いつも湯がぐらぐらと煮立っている。外から入ると、眼鏡がたちまち曇るほどだ。城介らは手をすり合わせながら卓につき、
「素うどん」
「素うどん」
と注文した。うどんが運ばれると、細ネギをごっそりかけ、一息につるつるとすすり、汁まで余さず飲んでしまう。うどんは噛むものでなく、咽喉で味わうものだというのが、中学生のダンディズムであった。そんな愚かなダンディズムは、どの時代でもどの場所でも、時々見かけられる。
しかし城介たちが当り屋を訪れたのは、単に強がりやダンディズムのせいではなかった。うちから持参した弁当は、二時間目か三時間目の休みに食べ終って、正午になると腹がすいたためである。だからそれほど咎むべき行為ではなかったわけだ。城介はことに空腹のためもあり、三杯もおかわりをした。
そこまではよかったが、金を払う段になって、四人はすこし青ざめた。お互いの懐中をあてにして来ていて、誰も金を持っていなかったのだ。
「困ったな」
「弱ったねえ」
四人は顔を突き合わせるようにして、ひそひそと相談をした。誰かが居残りになり、三人が学校に戻って、金をつくって来る。そんな案も出たが、直ぐに昼からの授業が始まるわけだし、ふたたび塀を乗り越して金を持って戻って来ることは、たいへん危険な作業であった。誰が居残りになるか、と言う問題もあった。その点で三人は二杯ずつしか食べなかったので、
「お前、三杯も食べたんだから、居残りになって呉れ」
城介はそれを拒絶した。当り屋は面白い商法を取っていて、うどん一杯なら五銭、二杯なら八銭、三杯食べると十銭払えばいいというシステムで、それほど当時のうどん屋は競争が烈しく、またみみっちい商売だったのだろう。中学校近くのうどん屋なんて、種物はあまり出ず、やはりうんと食わせることで利を稼がざるを得なかったのだ。またその商法は学生たちの気に入っていた。城介が三杯食べたのも、ただに空腹のためだけでなく、その商法のせいである。ついに一人が言った。
「仕方がない。逃げようか」
それを提言したのは、城介ではない。しかしその一言が、彼等の気持を一挙に踏み切らせた。今思うと、上着か帽子をカタに置いて来ればいいのに、その才覚ははたらかなかったようだ。はたらいたとしても、あとの面倒を考えるより、逃げる方がかんたんであった。もう当り屋に行かなきゃ、それで済むのだから。
それともう一つ、城介が居残りを拒否したのは、相手の三人が充分に信用置けないという点もあった。事件のあとで、城介は栄介に言った。なぜそんなバカな真似をしたんだ、という栄介の非難への答えである。
「あいつら三人は、貧乏人じゃないんだ。みんな割に大きな家に住んでいるんだ」
「するとそいつらは、金を出し惜しみをしたというわけか」
「そうじゃない。その時実際に、金は持っていなかっただろう」
城介は苦しそうな笑顔をつくった。
「あんなやつは、おれを居残りにして、そのままにして、平気で授業を受けるんだ。おれは時々、そんな目にあったことがあるんで、イヤだったのさ。それじゃ兄貴、あんまりこのおれが可哀そうだとは思わないか」
衆議一決して、逃走することになった。当り屋のおやじが出前のために釜前から姿を消すのを待って、四人はゆっくりと立ち上った。店番の婆さんに顔をかくして障子をあけ、そっと道路の様子をうかがい、いきなり走り出した。店番の婆さんがびっくりして、しめ殺される鶏のような声を立てて、立ち上った。足袋はだしで土間へ飛び降り、四人の後を追って道に飛び出した。
婆さんなので耳も遠いし、眼もかすんでいるだろう。まして追っかけて来ることはあり得ない。と思ったのが、城介たちの誤算であった。婆さんはよたよた走りながら、大声でわめいた。
「こら、待て。こら、待てえ」
城介は背を丸めて走った。一番遅れて、うしろを見い見い走っていた。
「これはうるさいことになったぞ」
鈍足だったのは、背後が気になったせいでもある。先頭から順々に路地に曲り込んだ。彼も曲り込もうとして、婆さんを振り返ると、婆さんは溝板を踏み外して、片足を溝に突っ込み、前のめりに倒れていた。婆さんの絶叫がやんだのは、そのためであった。彼は曲り角で走りやめた。彼の気持は引き裂かれた。
(このまま逃げようか。それとも戻ってたすけようか)
しかし反射的に、城介は現場にかけ戻った。逃げるのがこわかったのか。これが見捨てて置けるかという正義感だったのか。婆さんはうつぶせになり、地べたをかきむしってうなっている。城介が抱き起した時、その溝板の家のおかみさんが、不審そうな表情でぬっと顔を出した。城介は早口で言った。
「この婆さんが怪我をしたらしい。よろしく頼みます」
そして彼は婆さんをまた地面に戻し、学校の方に走った。結果としては、これが一番まずかったのである。わざわざ城介が戻らないでも、誰かが婆さんを見付けて、介抱しただろう。すると城介のやったことは、自分の顔をおかみさんに見せるために、かけ戻ったようなものであった。
あとで判ったことだが、婆さんの転んだ怪我は大したものでなかった。ただそのショックのために彼女は発熱して、十日間余り寝込んだ。
うどん屋のおやじは激怒して、学校当局にどなり込んだ。全校生徒の首実検をさせろという要求である。校長も弱ったらしい。首実検で新聞だねになってはたいへんだ。校長の進退にも関係して来るから、いろいろ協議の結果、
「そんな大げさなことはやめにして、生徒の登校下校時を見張って、犯人を探し出す」
ということで話がついた。
それで困ったのは、城介である。城介が一番よく顔を見られているし、彼一人なら裏門からでも、塀を乗り越えても登校出来るが、彼そっくりの栄介という双生児がいる。あのおかみさんがそれを見逃す筈がない。思い余って城介は、父親の前に坐って首を垂れた。
「お父さん。ぼくはもう学校をやめる」
「なぜだ?」
福次郎は驚いて反問した。
「もう学問がイヤになったのか?」
「それもあるけれど、実は――」
それを栄介が知ったのは、城介から聞いたのではなく、福次郎からである。栄介は城介を責めた。
「どうしておれに相談しなかったんだい。うどんの食逃げはよくないが、それだけなら停学の十日ぐらいで済んだ筈だよ」
「それがダメなんだよ。兄貴」
城介は父親の命で、長持の置いてある薄暗い納戸に謹慎させられていた。仕事と言えば裏の菜園の草むしりとか、風呂の水汲みぐらいで、外出出来ないものだから退屈して、精力を持て余しているように見えた。
「昔からおれはそうなんだ。学校の水泳で、立入禁止区域で泳いでいると、足がつって溺れかかるのはいつもおれだし、運動場で雪合戦をやっていると、おれの雪玉はいつも先生の頭にぶっつかるしさ。要領がてんで悪いんだ」
「しかし今度のことは――」
「それだって婆さんが飛び出して来なきゃよかったんだ。要領というより、運だね。いつも悪い運がおれに廻って来る」
「お前は自分でそう思っているだけだよ」
栄介は彼にそう言った。しかし言っても、もう追いつくことではなかった。
(おれに相談しなかったのは、おれからとめられることを心配したのか?)
後年になって、栄介は時々考えた。
(とめられると、学校をやめる決意がぐらつく。それをおそれたのかな?)
しかし栄介は、その時城介が学校をやめたい気持が、判らぬでもなかった。栄介自身もこの固苦しい学校のよどんだ空気に飽き飽きしていたからだ。
福次郎は息子の告白を聞いて、早速学校をやめさせる決心をした。そして一人で校長に面会した。