Chapter 1 of 7

Chapter 1

作者は、此の一篇を公にするのに、幾分の躊躇を感じないわけには行かないのだ。それというのも、実は此の一篇の本筋は作者が空想の上から捏ねあげたものではなく、作者の親しい亡友Mが、其の死後に語ってきかせて呉れたものなのである。亡友Mについては、いずれ此の物語を読んでゆかれるうちに諸君は、それがどのような人物で、どのような死に方をしたのであるか、おいおいとお判りになってくれることであろう。それにしても「死後に語ってきかせたもの」などと言うのは大変可笑しいことに聞えるかも知れないが、これも事情を申して置かねばならないことであるが、諸君もかねてお聞きおよびかと思う例の心霊研究会で、有名なるN女史という霊媒を通じて、作者がその亡友から聞いた告白なのである。その告白は、実に容易ならざる国際的怪事件を語っているので、命中率九十パーセントと称せられる霊媒N女史の取扱ったものだから充分事実に近いものだとすると、この怪事件は公表するには余りに重大な事柄で、或いは公表を見合わせた方が当り障りがなくてよいかも知れないくらいなのである。しかし一方に於て、N女史の招霊術は、単なる読心術にすぎないという識者もあるようだから、それなれば、N女史の前に坐った作者の心中にかくされていた妄想が反映したのに過ぎないとも云えないこともないのである。兎も角、そこのところは諸君の御判断におまかせするとして、怪事件の物語をはじめようと思うが、一種の実話であるだけに、筋ばかりで、描写が充分でないのは我慢していただきたい。

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