1 マントにんぎょうのまき
きむらたけしくんは、しょうがっこうの二ねん生で、とうきょうのひろいおうちにすんでいました。
おとうさんは、あるかいしゃのしゃちょうさんです。
きむらたけしくんのおうちのちかくに、ふしぎなせいようかんがあって、そこにふしぎな人がすんでいました。
二かいだてのふるいせいようかんで、そのまわりは、木のいっぱいはえたにわでかこまれていました。
このふしぎないえのふしぎな人は、林さんという、四十ぐらいのおじさんでした。
おくさんも子どももなく、たったひとりで、そのひろいせいようかんにすんでいるのです。
きんじょの人たちは、このせいようかんをばけものやしきといっていました。また、そこにひとりですんでいる林さんを、まほうつかいとよんでいました。
ところが、きむらたけしくんのおとうさんは、このふしぎな人とだいのなかよしだったので、林さんは、たけしくんのおうちへよくあそびにきました。
おとうさんはたけしくんと、いもうとのしょうがっこう一ねん生のきみ子ちゃんに、よくこんなふうにいってきかせるのでした。
「林さんはかわりものだが、けっしてわるい人じゃない。たいへんちえがあるのだよ。そのちえで、いろいろふしぎなことをやってみせるので、まほうつかいのようにみえるだけなのさ」
たけしくんもきみ子ちゃんも、林さんとなかよしになっていました。
ある日のごご三じごろのことです。たけしくんときみ子ちゃんは、林さんのおうちのにわであそんでいました。たくさんの木にかこまれたひろいしばふにこしをおろして、林さんのおはなしをきいていたのです。
林さんはくろいふくをきて、大きなくろいネクタイをとんぼむすびにしていました。
ふちなしの四かくなめがねをかけ、ぴんとはねた口ひげと、三かくのあごひげがあります。いかにもせいようのまほうつかいみたいなかっこうです。
その林さんが、こんなことをいいだしました。
「きみたちに、おもしろいものをみせてあげようか。びっくりするようなものだよ。わたしは、むこうの木のしげみにかくれるからね。すると、あそこのしいの木のねもとから、小さいものがあらわれるのだ。よくみているんだよ」
そういって、林さんは、しいの木のむこうのしげみの中へはいっていきました。
たけしくんと、きみ子ちゃんは、むねをわくわくさせながら、そのしいの木の下を、じっとみつめていました。
あたりは、しいんとしずまりかえっています。はるのおてんきのよい日で、しばふには、日がてっています。でも、しいの木のへんからむこうは、木のはがしげっているので、すこしうすぐらいのです。
「おじさん、なにをみせてくれるんだろうね」
たけしくんがいいますと、きみ子ちゃんは、にいさんのかおをみつめながら、「あたし、こわいわ」と、いかにもきみわるそうにささやくのでした。
すると、そのときです。あの大きなしいの木のねもとから、なにか小さなものが、ちょこちょことはいだしてきたではありませんか。
むしでしょうか。いや、むしにしては、大きすぎます。
しかも、それは、はっているのではなくて、二本の足であるいているのです。
それは、たかさ二十センチぐらいの、おもちゃのにんげんなのです。
くろいふくをきて、くろいマントをはおり、くろいソフトをかぶっています。
かおは小さくてよくみえませんが、なんだか林さんのかおににているようです。
かわいらしい四かくなめがねがちかちかひかり、三かくのあごひげがはえています。
そのおもちゃのにんげんが、まるでほんとうのにんげんのように、てくてくあるいているのです。
きっと、ぜんまいじかけであるくようになっているのでしょうが、それにしても、なんてじょうずにあるくのでしょう。
その小さなにんげんは、しいの木のとなりの大きな木にかくれてしまいました。
たけしくんときみ子ちゃんは、いまにあの木のうしろをとおりすぎて、またあらわれるだろうとまっていました。
やがてあらわれました。しかし、これはどうでしょう。あのにんぎょうが、たかさ四十センチほどに、大きくなっているではありませんか。
木のうしろをとおるあいだに、せのたかさがばいになってしまったのです。
「わぁ、ふしぎだ。おじさんは、やっぱりまほうつかいだねえ。おじさん……、おじさん……」
たけしくんは、そういって、しげみのうしろにいる林さんによびかけましたが、林さんは、どこかへいってしまったのか、しいんとしずまりかえって、なんのこたえもないのです。
すると、ばいの大きさになったにんぎょうは、二メートルほどあるいて、そのつぎの木のみきのむこうがわにかくれました。
まもなく、そこをとおりすぎてあらわれたにんぎょうをみますと、こんどは、一メートルもあるような大きさにかわっていました。
きみ子ちゃんとそんなにちがわないぐらいの大きさです。
たけしくんときみ子ちゃんは、びっくりしてかおをみあわせました。いよいよきみがわるくなってきたからです。
一メートルになったにんぎょうは、くろいマントをこうもりのようにひらひらさせて、木のみきをぐるっとまわり、もとのほうへもどってきました。
そして、さいしょのしいの木のみきにかくれたかとおもうと、つぎにそこからあらわれたのは、なんとおとなの大きさのにんぎょうだったではありませんか。
いや、にんぎょうではなくて、ほんとうのにんげんだったのです。
「わははははは……。どうだ、おどろいたかい。わしだよ。おじさんだよ。
おじさんはね。二十センチぐらいの小人にもなれるんだよ。
そして、いまのように、みるまに大きくなって、もとのすがたにもどれるのだよ」
ああ、なんというふしぎでしょう。それでは、さっきの小さなすがたも、にんぎょうではなくて、林さんだったのでしょうか。