Chapter 1 of 4

境遇に応じ規律ある生活を必要とする

一日の生活をするにしても何時に起き、何時に食事をなし、何時に訪問者に接し何時から人を訪問するという様に規律正しくしている人もあるが、我輩の様に幕末時代から明治にかけての、非常な場合に於て働かねばならなかった者は、朝の予定と夕の実際とまるで変る様な生活をして来たので、そういう習慣が第二の天性となって、今日でもあまり予定を立てた生活をすることは遣らないのである。例えば軍人が戦争をするにしても、地図の上で決めた作戦計画通りの戦闘をすることは少のうて、多くの場合は不意に起って来るところの戦い、即ち遭遇戦というものの方が多いのである。人生もまたこれと同じ様に、多くの人の生活には不意の出来事の方が多いのである。そこで実際生活に必要なことは、如何なる不意を喰ってもこれに狼狽しないだけの心胆を錬っておくことであると思う。その方法は今日の学者、宗教家、教育家の言っているところの形式ばかりの修養というものでは駄目だと思う。彼等は口先ばかりで豪そうなことを言って、その生活はむしろその言うところの反対を行っているのが少なくない。

我輩の実験からいうと、整然たる理窟の立った生活を云々するより、真面目に努力する生活の方に力があると思う。しかし時勢が益々進化して、秩序と平和とが保たれる様になれば、従って国民の生活も秩序ある規則あるものとなって行くべきは勿論である。要するに初めからきちんとした箱詰めの様な生活を真似るよりも、境遇に適応した活動をしてそこに規則のある生活を造ることが必要である。

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