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雨が降り出したとみえて、窓硝子がすっかり曇っている。私は指先で曇りを除いて外を見た。汽車はどこを走っているのだろう、ただ暗闇の中を驀地に進んで行くのだ。軌道が不完全なのだろうか、車が悪いのだろうか、がたがたと車体がよく揺れる。揺れる度に先生の肩に垂れた長髪もゆらゆらと波打って、それを凝と見詰めていると、髪の毛の一本一本が、あたかも心あって動いてでもいるように思われる、そして彼の小さい鋭い眼、それがまた相手の心の奥底まで見通しでもするかのように、キラキラと光っている。彼はきっと私の心をも見抜いている事だろう。内心嘲笑しながら話を聞いていたのも、疾くに知っていて故意と素知らぬ振りを装っているのかも知れない、と思うと少々気まりが悪るくもなるのだった。
暫時すると先生は底光りのする眼に微笑をたたえながら、軽い咳を一つして、徐ろに云った。
「あなたは新生寺さんの事については何も御存じないんですね。――表面に現われていること以外は」
「はい、余りよく存じませんが――。ただ伯父が若い頃に株で失敗して、親譲りの財産をすっかり潰ってしまい、その上親類中に大迷惑をかけ、長い間行方を晦ましていましたが、何十年目かで再び皆の前に姿を見せました時は、園部の新生寺住職となっていたという話だけは聞いて居ます。昔の事は知りませんが、私が始めて逢いました時は、そんな山気のある人のようでもなく、至って柔和な、人の好さそうな和尚さんでしたわ。でも、どういう理由か存じませんが、主人は伯父を好まなかったので、音信もせず、噂も余りいたしませんでしたの」
「表面に現われているのは、あなたのご存じの事だけです。それ以外は恐らく何人も知りますまい。しかし、私は新生寺さんから直接打ち開け話も聞いていたし、いろいろ相談も受けていた、殊に彼の身を亡した原因とも想像し得る、ある深い悩み、それについては絶えず私に訴えていられたので、――何とかして救って上げたい、と心配していたんです。お助けする事も出来ないうちに、遂々こんな事になってしまって――、実に残念で堪らないんです」
「どうして株なんかに、また手を出したものでしょうか。一度ああいうものに手を出すとそれが病み付きとなって、止められなくなるもんなんでしょうね。伯父も終いには命まで投げ出さなければならないようになって――」
「しかし、あの方のはそればかりじゃないんですよ」
と云って、彼は唇を真一文字に結び、顎髭をしごいている。伯父の死に就いて、彼のみが知る、何事かがあるに違いないのだ。
「話して下さいませんか? 何かご存じのことがあるなら――、私共は自殺の原因を借財のためとばかり思い込んでいるんですから。もしも他に原因があるとすれば、是非承っておき度いと存じます」
「ですが―――、新生寺さんはその秘密が人の耳に入る事を非常に恐れていたと思うんですから、どうぞ他にお漏しにならないようにして頂きたいのです」
と堅く口止めしてから、やっと話し始めた。