Chapter 10 of 28
雷を罵る
呉興の章苟という男が五月の頃に田を耕しに出た。かれは真菰に餅をつつんで来て、毎夕の食い物にしていたが、それがしばしば紛失するので、あるときそっと窺っていると、一匹の大きい蛇が忍び寄って偸み食らうのであった。彼は大いに怒って、長柄の鎌をもって切り付けると、蛇は傷ついて走った。
彼はなおも追ってゆくと、ある坂の下に穴があって、蛇はそこへ逃げ込んだ。おのれどうしてくれようかと思案していると、穴のなかでは泣き声がきこえた。
「あいつがおれを切りゃあがった」
「あいつどうしてやろう」
「かみなりに頼んで撃ち殺させようか」
そんな相談をしているかと思うと、たちまちに空が暗くなって、彼のあたまの上に雷の音が近づいて来た。しかも彼は頑強の男であるので、跳りあがって大いに罵った。
「天がおれを貧乏な人間にこしらえたから、よんどころなしに毎日あくせくと働いているのだ。その命の綱の食い物をぬすむような奴を、切ったのがどうしたのだ。おれが悪いか、蛇が悪いか、考えてみても知れたことだ。そのくらいの理屈が分からねえで、おれに天罰をくだそうというなら、かみなりでも何でも来て見ろ。おのれ唯は置かねえから覚悟しろ」
彼は得物を取り直して、天を睨んで突っ立っていると、その勢いに辟易したのか、あるいは道理に服したのか、雷は次第に遠退いて、かえって蛇の穴の上に落ちた。天が晴れてから見ると、そこには大小数十匹の蛇が重なり合って死んでいた。