七聖画
唐の長安の雲花寺に聖画殿があって、世にそれを七聖画と呼んでいる。
この殿堂が初めて落成したときに、寺の僧が画工をまねいて、それに彩色画を描かせようとしたが、画料が高いので相談がまとまらなかった。それから五、六日の後、ふたりの少年がたずねて来た。
「われわれは画を善く描く者です。このお寺で画工を求めているということを聞いて参りました。画料は頂戴するに及びませんから、われわれに描かせて下さいませんか」
「それではお前さん達の描いた物を見せてください」と、僧は言った。
「われわれの兄弟は七人ありますが、まだ長安では一度も描いたことがありませんから、どこの画を見てくれというわけには行きません」
そうなると、やや不安心にもなるので、僧は少しく躊躇していると、少年はまた言った。
「しかし、われわれは画料を一文も頂戴しないのですから、もしお気に入らなかったならば、壁を塗り換えるだけのことで、さしたる御損もありますまい」
なにしろ無料というのに心を惹かされて、僧は結局かれらに描かせることにすると、それから一日の後、兄弟と称する七人の少年が画の道具をたずさえて来た。
「これから七日のあいだ、決してこの殿堂の戸をあけて下さるな。食い物などの御心配に及びません。画の具の乾かないうちに風や日にさらすことは禁物ですから、誰も覗きに来てはいけません」
こう言って、かれらは殿堂のなかに閉じ籠ったが、それから六日のあいだ、堂内はひっそりしてなんの物音もきこえないので、寺の僧等も不審をいだいた。
「あの七人はほんとうに画を描いているのかしら」
「なんだかおかしいな。なにかの化け物がおれ達をだまして、とうに消えてしまったのではないかな」
評議まちまちの結果、ついにその殿堂の戸をあけて見ることになった。幾人の僧が忍び寄って、そっと戸をあけると、果たして堂内に人の影はみえなかった。七羽の鴿が窓から飛び去って、空中へ高く舞いあがった。
さてこそと堂内へはいって調べると、壁画は色彩うるわしく描かれてあったが、約束の期日よりも一日早かったために、西北の窓ぎわだけがまだ描き上げられずに残っていた。その後に幾人の画工がそれを見せられて、みな驚嘆した。
「これは実に霊妙の筆である」
誰も進んで描き足そうという者がないので、堂の西北の隅だけは、いつまでも白いままで残されている。