Chapter 1 of 1

Chapter 1

新ちゃんは腰に長いものさしをさし、片方の目をつぶって、片方の手をうしろにかくしながら、頭をちょっとかしげて、みんながお話をしているところへ、いばって出てきました。

「いいか、よらばきるぞ?」と、いいました。

「なあに? 新ちゃん、それは、なんのまねなの?」と、お母さんがおっしゃいました。

「ねえ、お母さん、タンゲサゼンのまねをしているのですよ。」と、兄さんの徳ちゃんが、いいました。

「どこでそんなもの見てきた?」と、お父さんがおわらいになりました。

新ちゃんはそんなことには答えないで、さっとものさしをひきぬいてふりまわしていました。

「また、一人きったぞ。」といって、とくいでいました。

「まあ、ほんとに困ってしまいますこと。」と、お母さんはおっしゃいました。

「お母さん、チンドン屋がこんなまねをしてくるのですよ。」

そういって兄さんは、「おれはそんなばかなことはしないぞ。」といわぬばかりに、弟のすることを見ていました。

「ああ、そうか。新吉もチンドン屋のお弟子になるといい。」と、お父さんがおっしゃいました。

「チンドン屋なものか、小田くんからならったんだい。」と、新ちゃんはいいました。

「小田くんって、新ちゃんの組なの?」

「そうさ、小田くんは、それはうまいから。」と、新ちゃんはなにを思いだしたのか、感心をしています。

「その子は勉強がよくできるの?」

「そうよくできないよ。」

「じゃ、チャンバラがうまくたって、しかたがないじゃないか。」と、兄さんはいいました。

「それでも、その子はおもしろいよ。ぼく、大すきさ。」

「新ちゃんは、そんな子とばかりあそんでいるのでしょう。」と、お母さんがおっしゃいました。

「話をきくとおもしろい子だね。きっと、その子も、きかんぼうだろう。」と、お父さんがいわれました。

「お父さんは、小田くん見た?」

「お父さんは見なくたって知っているさ。」

「ほんとにかわいい、おもしろい、いい子なんだよ。」

そういって、新ちゃんは、自分のすきなお友だちがほめられたので、大よろこびです。

「自分が小さいくせに、かわいらしいなんて。」と、兄さんがわらいました。

「こんど、小田くんのうち、田舎へいくかもしれないよ。」

「どうして?」

「こないだ、小田くん、そんなことをいっていた。そうしたら、ぼく、さみしくて困るなあ。」

「きっと、じょうだんでしょう。」と、お母さんはおっしゃいました。

そのあくる日でした。うけもちの西山先生は、小田くんを教壇によんで、

「こんど、小田くんのおうちは、とおいところへおひっこしになるので、みなさんとおわかれですから、ごあいさつをなさい。」と、おっしゃいました。

みんなが立ちました。そして級長の号令で、礼をしました。そのとき、ひょうきんな小田くんは、いつものタンゲサゼンのまねをして、片目をつぶって頭をさげたので、これを見たものが、くすくすとわらいだしました。

「なにがおかしいのですか?」と、先生が、みんなにむかっていわれました。

「先生、小田くんがわらわせたのです。」

西山先生も、かねてから小田くんのことを知っておられたから、

「なにをしたんだ?」と、わらいながら、小田くんにおっしゃいました。

さすがに、小田くんは頭に手をあげて、顔を赤くしていました。

「先生、片目をつぶってタンゲサゼンのまねをしたのです。」

だれかがいったので、みんなが吹きだすと、先生もいっしょになっておわらいになりました。

その日、新ちゃんはおうちへかえると、一人ぼんやり考えていました。

「もう、あす、学校へいっても小田くんはこないな。」といって、目の中にいっぱいなみだをためていました。

●図書カード

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