Chapter 1 of 3

きょうは、二郎ちゃんのお免状日です。お母さんは、新しい洋服を出して、

「これを着ていらっしゃい。よごすのでありませんよ。」と、おっしゃいました。二郎ちゃんの、いままで着ていた洋服はよごれて、ところどころつくろってあります。

「お母さん、これでいいよ。」と、二郎ちゃんは、いいました。こないだまで、こんな服は、みっともないといったくせに、きょうは、新しい服を着ていくとはいわぬのです。

「どうしてですか。」

「いいよ、これで。」

「三年生になったのですから、新しいのを着ていらっしゃい。」

「だって、お母さん、非常時でしょう。」

「まあ、それでそういうの。」

「なんでも、きょうは、これでいいのだよ。」と、二郎ちゃんは、いいはりました。

「みんなほかの人は、きれいにしていらっしゃるのに、おまえだけ、そんなふうをしていていいのですか。」と、お母さんは、じっと、二郎ちゃんをごらんになりました。

「だって、僕、わるいお点だと、新しい洋服など着ていって、恥ずかしいんだもの。」と、二郎ちゃんは、きまり悪そうに、いいました。

「ああ、それでそういうのですか。考えてごらんなさい、平常遊んでばかりいて、いい成績のとれるはずがないでありませんか。」

「僕、新学年から、勉強するのだ。」

「どうですか。」

「ほんとうだよ、お母さん。」

「いままでのように、遊んではいけませんよ。」

「お母さん、これから勉強するから、丙があってもしからない。」

「丙ですか、そんなわるい点があると思うのですか。」と、お母さんは目をまるくしました。

お母さんは、これから勉強するなら、しからないとお約束をして、新しい洋服を着せて、二郎ちゃんをお出しになりました。

二郎ちゃんは、自分でも、あまりいい成績とは思われなかったので、いくつ甲があるかなあと考えていました。先生が、通信箋をお渡しなさると、胸をどきどきさせながら開いてみました。体操が甲になっているだけで、あとはずっと乙の行列でありました。二郎ちゃんは、おしどりが行儀よく並んでいるので、おかしくなりました。しかし、お家へ帰ると、さすがに、元気よくこれをお母さんに見せる勇気がなかったのです。お縁側には、ねこがひなたぼっこをしていました。二郎ちゃんは、ねこが大好きでしたから、すぐそのそばへすわりました。ねこは二郎ちゃんを見ると、ごろりと横になって、あくびをしながら四つ足をのばしました。

「僕は、体操がうまいんだぜ、ほら甲だろう……。」と、通信箋をねこの鼻さきにひろげて見せたのです。

こちらのへやで、お仕事をなさっていたお母さんは、二郎ちゃんの声を聞くと、

「二郎ちゃん、帰ったのですか。なぜここへきて、ごあいさつをしないのです。」と、おっしゃいました。

「うん、いまいくよ。」

二郎ちゃんは、ねこの顔へ、自分の顔を押しつけてから立ち上がりました。

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