Chapter 1 of 38

(一)

此所にトムさんと言ふ至つてお人好しの農夫がをりました、この村の人達は余りお人好しの事をトムさんのやうだとよく言ひますが、全くトムさんはお人好しでした。随分よく働きます。それに無口で大力で正直で何ひとつも欠点がありませんでしたが、唯そのお人好しがあんまり過ぎるので困りました。

トムさんは三人ものお嫁さんを貰ひましたが、ふしぎに二三日たつと三人ともみな逃げ帰つてしまつたのでした、それには色々のわけがあるのです。最初のお嫁さんを貰つた時でした。トムさんは大変お嫁さんを可愛がつて一粒の豆でも仲善く半分頒合つて食べる程でしたから、お嫁さんも大変満足して居たのでした。

処が丁度、お嫁さんをもらつて三日目の真夜中頃ミシリ/\と屋根で音がしたと思ふと、天井の空窓から太い繩を下して三人の泥棒がトムさんの家へ忍びこんだのです。三人の泥棒はグウグウ高鼾で寝込んでゐるトムの枕元に立つて不意に枕を足で蹴飛ばしましたので、トムさんは吃驚して眼を覚しました、トムさんは自分の眼の前に背のヒョロ高い顔の真黒い鬚だらけの泥棒がによつきり突き立つてゐるので、トムさんは驚くまいことか、一時は腰を抜かさんばかりに吃驚しました。然しお人善しのトムさんはやがて泥棒に向つて「お前さん方は商売とはいゝ乍らこの真夜中に御苦労さまの事です、まあご一服唯今お茶を差しあげます、然し皆様私は昨夜戸締りもあんなにしつかりしてをいたのにどこから入つて来ました」かう尋ねました。

Chapter 1 of 38