Chapter 1 of 19
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わたしはシャリアピンさまに
永年仕へてゐる蚤
ともに韃靼の古都カザンに生れ
ともに暮して当年六十四歳、
夏はシャリアピンのカラーの下の涼しいところに
冬は暖い頭髪の中に
平素は主として鳩尾のあたりに住んでゐる、
早耳、早足は小生の特長
御主人シャリアピンが御承知なくとも
わたしはすべてを知つてゐる、
ソビヱットのこと、
旦那の若い頃からの友達ゴリキイ旦那の最近の便りも
せつせと走り廻つたり、聴き廻つたりして、
世の中のだんだん変つてゆくのを
知ることは私の楽しみだ。