Chapter 10 of 24
牡蠣の殼
牡蠣の殼なる牡蠣の身の
かくもはてなき海にして
獨りあやふく限ある
そのおもひこそ悲しけれ
身はこれ盲目すべもなく
巖のかげにねむれども
ねざむるままにおほうみの
潮のみちひをおぼゆめり
いかに黎明あさ汐の
色しも清くひたすとて
朽つるのみなる牡蠣の身の
あまりにせまき牡蠣の殼
たとへ夕づついと清き
光は浪の穗に照りて
遠野が鴿の面影に
似たりとてはた何ならむ
痛ましきかなわたづみの
ふかきしらべのあやしみに
夜もまた晝もたへかねて
愁にとざす殼のやど
されど一度あらし吹き
海の林のさくる日に
朽つるままなる牡蠣の身の
殼もなどかは碎けざるべき