Chapter 1 of 4
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われは思ふ、浅草の青き夜景を、仲見世の裏に洩るる短夜の葱のむせびを、公園の便所の瓦斯を、はた、澄めるアルボースの香を。
あはれなる蛇小屋の畸形児を、かつは知れりや、怪しげの二階より寥しらに顔いだす玉乗の若き女を、あるはまた曲馬の場に息喘ぎ、うちならぶ馬のつかれを。
新しきペンキに沁みる薄暮の空の青さよ。また臭き花屋敷の側に腐れつつ暗みゆく溝の青さは夜もふけて銘酒屋の硝子うち覗くかなしき男のみや知りぬらん。
われは思ふ、かかる夜景に漂浪へる者のうれひを、馬肉屋のにうつる広告の幻燈を見て蓄音機きけるやからを、かくてまた堂のうしろに病める者、尺八の追分ふし。