Chapter 6 of 11
『花樫』雀の卵
竹と山水
ひと色に黒くにじめる冬の山雨過ぎぬらし竹のみな靡く (墨画を見て) (二〇五頁)
註、訂正前の原歌に還したのである。本は墨画を見ての作であつた。
閻魔の咳
冬の光しんかんたるに真竹原閻魔大王の咳とほる (二〇七頁)
山内の時雨
三縁山増上寺の朱の山門にふる時雨日がな日ぐらしふりにけるかも (二一三頁)
麻布十番
常青き堅木常盤木その葉落ちずいよいよ経れば霜下りにけり (二一五頁)
白牛
吹雪やみて月夜明りとなりにけりおほに湧き起る牛の遠吼 (二二一頁)
路次の朝
硝子戸をさやに拭きこむこの朝明隣の雪が眼の傍に見ゆ (二二八頁)
雪煙ちらし蹴合へる組み雀ぱぱと立ちたり庇まで来て (二二九頁)
ほのかなる降りなりしかど椎の葉に一夜積みたる雪のうれしさ (二二九頁)
夜明の鶴
嘴ほそき鶴の一羽は見上げたり雪の気霧らふ空の暗みを (二三六頁)
春のめざめ
おのづから睡眠さめ来るたまゆらはまだほのぼのし童ごころ (二九〇頁)
米飯
日に常に食べ馴れつつ米の飯やうましとも思はね我も飽かぬかも (二五三頁)
とり立てて味は香はなし米の飯ただ噛みしめていよよ知るべし (二五四頁)
石版職工
人皆の眼おどろき見てを居り人のひとりの描く花蓮 (二五六頁)
ははそはのこれや我が母我がどちのこのよき母も老いましにけり (二六五頁)
貧しき食膳
葱のぬた食しつつふともこの葱は硬き葱ぞと父の宣らしつ (二七〇頁)
母の深き吐息きくとき子の我や母のこころにひたと触りたり (二七〇頁)
竹屋の木蓮
竹河岸の竹の櫓の春寒し細かに見ればその尖の揺れて (二八八頁)
ひしひしと繁み立てたれ竹の尖は突きぬけて寒し竝倉の上に (二八九頁)