Chapter 1 of 5
一
これまで塚原俊夫君の取り扱った事件の中には、ずいぶん複雑なものもありましたし、また、きわめて簡単なものもありました。しかし、簡単といっても、俊夫君にとってその解決が容易であったというだけでして、事件そのものはかなりにむずかしいものが多かったのであります。
これから皆さんにお話ししようとする事件も、警視庁の人たちがもてあましたあげく、俊夫君によって、たちどころに解決された殺人事件であります。犯人はたしかにあの男であると推定されておりながら、その男がじゅうぶん計画をしてやったことでありますから、警視庁の人たちはその証拠をあげることができなかったのです。
けれども、どんなに巧妙に計画された犯罪でも、どこかに必ず手ぬかりがあるものです。この事件においても、やはり犯人は大きな手ぬかりをしていたのです。しかし、その手ぬかりを、警視庁の刑事たちは気がつかなかったのでして、ただ俊夫君だけが、それを容易に発見して、ついに犯人を自白せしめることができたのであります。
こういう探偵事件を紹介するには、俊夫君のところへ事件が依頼された当時から書きはじめて、俊夫君が解決するまでを、順序ただしく述べるのが普通ですけれど、今になっては、何もかも分かっているのですから、むしろ、私は犯罪の顛末を先に述べて、それから、俊夫君がそれを解決した模様を語ろうと思います。というのは、皆さんにも、この事件のどこに手ぬかりがあったかを、あらかじめ考えていただきたいと思うからであります。