Chapter 1 of 9
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「ボーイング単座機の失踪。
坂譲次氏は愛機、四十――年型ボーイング機J・B3A5を駆って、昨十三日午後十時、大阪国際飛行場を離陸したまま、行方不明になった。
同機は最高速力毎時三百五十哩、航続時間二十五時間の優秀機で、本日未明、金華山沖を東に向って飛行する同機を認めたとの報あるも、真偽不明……」
明日の新聞には、こうした記事が掲載されるであろう。今午後九時二十分。北緯五十度、東経百六十五度のあたりを、大圏航空路にそって、ただ一路、東に向って飛んでいる。昨夜の十時大阪国際飛行場を出発して、そのままずっと飛行を継続しているのだ。星一つ見えない暗黒の闇だ。が、無気味なほど気流はいい。殆ど操縦棹に触れる必要もないほどだ。航続時間はあと四時間を余すのみ。しかし、二時間もあれば、この手記を終り得ると考える。積載燃料の総てが、消費しつくされる一時間前には、横浜に向けて航行中の北太平洋汽船会社“シルバー・スター号”の船影を認め得るはずだ。
自分は、この手記を通信筒に入れ、同船の甲板に投下する。