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佐藤春夫詩集
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佐藤春夫詩集
佐藤春夫
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Translation Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 9 of 33

オルゴオルにそへて弟に與ふ

恥多き物語書き得て得たる金いくらか。

病癒えそむる汝が枕べに置かばやと

オルゴオルを買ひ來て、春の夜ふけに

まづみづから試みなぐさむなり……

これはこれ詩人が心の臟なれば、

うた湧き出づる箱のよろしさよ、

聞きつつをれば春の夜はそぞろに

こころはをさな子のごとく物好きになり

ふと、その箱のおもてに手をふるれば

思ひきや、これはこれ夢かとふるき思ひ出の

少女子がときめく心の臟をひそめをさめて

わが手にひびくをののきのかそけさよ

あやしさよ、いみじさよ、いとしさよ、

げに歌湧きいづるこの箱のよろしさよ。

な言ひそ、弟よ、汝がいのちいま衰へて

人の世の喜びに置く枕べの小さなる箱一つと。

知れよ、汝が兄は命壯んなる日にもなほ且つ、

人の世の喜びはただ小さなるわが心の箱一つぞと。

Chapter 9 of 33
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