六
新吉は、曲馬団の荷物をつんだ馬車に追いつくと、うしろからこっそりと馬車のすみっこへ乗っかりました。
空には星が光りはじめました。その星空をぼんやりと眺めながら新吉は、曲馬団の仲間に加わってからのことをいろいろと想像しました。その想像はみんな、はなやかな、幸福なことばかりでした。
すっかり夜になってから、曲馬団の一行は停車場へつきました。
「なんと言って頼んだら、仲間に入れてもらえるだろうな。」
新吉はそれを考えていました。するとそこへひょっこりと、赤いメリンスの着物をきた少女があらわれました。馬乗りの少女ですが、着物をきているので、ふつうの町の少女のように見えました。少女は、新吉を見つけると、
「おや、こんなところに黒ん坊の子がいるよ。」と言いました。新吉はどぎまぎして、馬車からずり下りました。
「お前さん、どっからついて来たの?」
「ぼ、ぼ、ぼくね。」と新吉はどもってから「僕、曲馬の仲間に入りたいんだよ。」
やっとそれを言いました。
「いやーだ。」
そう言ったかと思うと、少女はくるりと背中を向けて走り去ってしまいました。と間もなく、少女はもっと年の多い女の人をつれて、またやって来ました。
「お前、曲馬団へ入りたいんだって? いったいどこから来たの?」
「昨日まで曲馬をやってたろう。あの町からついて来たんだ。」
「それで、あんたの家は。」
「僕、鍛冶屋の小僧だよ。」
「どうりで、まっくろけの顔をしていると思った。それで、だまって鍛冶屋を出て来たんだね。悪い子だね。親方に怒られるから、さっさとおかえんなさいね。」
「でも僕、鍛冶屋へかえるのいやなんだよ。親方もおかみさんも意地悪で、しょっちゅうひどい目にあわせるんだもの。」
「曲馬団の中だっておんなじことだよ。曲馬団の中はもっとつらいことばかりだよ。ね、だからそんなつまらない考えを起こさずに、おとなしくおかえんなさい。わかった?」
「…………」
新吉が返事に困っていると、
「おーい、時間だよ。ぐずぐずしていると、汽車が出ちまうよ。」と大きな叫び声が聞こえて来ました。女の人は少女の手を引いて、改札口の方へ走って行ってしまいました。
やがて曲馬団の一行を乗せた汽車は出発してしまいました。一人あとに残された新吉はがっかりしてその場につっ立っていました。まもなく曲馬の荷物は倉庫の方へ引かれて行きました。倉庫の前のレールには貨車が三つほど引きこまれていました。荷物は、象やライオンや虎やその他の動物といっしょに、積まれて行くのです。
それと知った新吉は、貨車の戸が開いているのを幸いに、暗い方からそっとしのんで行って、ちょろりと鼠のように素早く、貨車の中へ飛びこんでしまいました。