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ガリバー旅行記
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スウィフトジョナサン
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Translation Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 4 of 23

4 宮殿見物

鎖を解かれたので、私は、この国の首府ミレンドウを見物させていたゞけないでしょうか、と皇帝にお願いしました。皇帝はすぐ承知されました。たゞ、住民や家屋を傷つけないよう、注意せよ、と言われました。

私が首都を訪問することは、前もって、市民に知らされていました。街を囲んでいる城壁は、高さ二フィート半、幅は少くとも十一インチありますから、その上を馬車で走っても安全です。城壁には十フィートおきに、丈夫な塔が築いてあります。

西の大門を、一またぎで越えると、私はそろっと横向きになって、静かに歩きだしました。上衣の裾が、人家の屋根や軒にあたるといけないので、それは脱いで、手にかゝえ、チョッキ一つになって、歩いて行きます。市民は危険だから外に出ていてはいけない、という命令は前から出ていたのですが、それでも、まだ街中をうろ/\している人もいます。踏みつぶしでもすると大へんですから、私はとても気をくばって歩きました。

屋根の上からも、家々の窓からも、見物人の顔が一ぱいのぞいています。私もずいぶん旅行はしましたが、こんなに大勢、人の集っているところは見たことがありません。市街は正方形の形になっていて、城壁の四辺はそれ/″\五百フィートです。全市を四つに分けている、十文字の大通りの幅は五フィート。私は小路や横町には、入れないので、たゞ上から見て歩きました。街の人口は五十万。人家は四階建から六階建まであり、商店や市場には、なか/\、いろんな品物があります。

皇帝の宮殿は、街の中央の、二つの大通りが交叉するところにあります。高さ二フィートの壁で囲まれ、他の建物から、二十フィート離れています。私は皇帝のお許しを得て、この壁をまたいで越えました。壁と宮殿との間には、広い場所がありますから、私はそこで、あたりをよく見まわすことができました。外苑は方四十フィート、そのほかに二つの内苑があります。一番奥の庭に御座所があるのです。

私はそこへ行ってみたくてたまらなかったのですが、どうもこれは無理でした。なにぶん、広場から広場へ通じる大門というのが、たった十八インチの高さ、幅はわずかに七インチです。それに、外苑の建物というのは、みな高さ五フィート以上で、壁は厚さ四インチもあり、丈夫な石で出来ていますが、それを私がまたいで行ったら、建物がこわれてしまいそうなのです。

ところが、皇帝の方ではしきりに、御殿の美しさを見せてやろう、と仰せになります。その日は御殿を見るのは、あきらめて帰りましたが、ふと、私はいゝことを思いつきました。

翌日、私は市街から百ヤードばかり離れたところの林に行って、一番高そうな木を、五六本、小刀で切り倒しました。それで、高さ三フィートの踏台を二つ、私が乗っても、グラつかないような、丈夫な踏台を作りました。

これが出来上ると、私はまた市街見物を皇帝にお願いしました。市民には、また家の中に引っ込んでいるよう、お達しが出ます。

そこで、私は二つの踏台をかゝえて、市街を通って行きました。外苑のほとりに来ると、私は一つの踏台の上に立ち上り、もう一つの踏台は手に持ちました。そして、手の方の踏台を屋根越しに高く持ち上げ、第一の内苑と第二の内苑の間にある、幅八フィートの空地へ、そっとおろしました。

こんなふうにして、私は建物をまたいで、一方の踏台から、もう一方の踏台へ、乗り移って行くことができました。乗り捨てた方の踏台は、棒の先につけた鈎で、釣り寄せて、拾い上げるのです。こういうことを繰り返して、私は一番奥の内庭まで来ました。そこで、私は横向きに寝ころんで、二三階の窓に、顔をあてゝみました。窓はわざと開け放しにされていましたが、その室内の立派なこと、どの部屋も、目がさめるばかりの美しさです。

皇后も皇子たちも、従者たちと一しょに、それ/″\、部屋に坐っておられます。皇后は、私を御覧になると、やさしく笑顔を向けられ、わざ/\窓から、手をお出しになります。私はその手をうや/\しくいたゞいてキスしました。

私が自由な身になってから、二週間ぐらいたった頃のことでした。ある朝、宮内大臣のレルドレザルがひょっこり、一人の従者をつれて、私を訪ねて来ました。乗って来た馬車は、遠くへ待たしておき、彼は、

「一時間ばかりお話がしたいのです。」

と私に面会を申し込みました。

私がしきりに皇帝へ嘆願書を出していた頃、彼にはいろ/\世話になったのです。で、私はすぐ彼の申込みを承知しました。

「なんなら私は横になりましょうか。そうすれば、あなたの口は、この耳許にとゞいて、お互に話しいゝでしょう。」

「いや、それよりか、あなたの掌の上に乗せてください。その上で、私は話しますから。」

私が彼を掌に乗せてやると、彼はまず、私が釈放されたことのお祝いを述べました。

「あなたを自由の身にするについては、私もだいぶ骨折ったのです。だが、それも現在、宮廷にいろ/\混みいった事情があったからこそ、うまくいったのです。」

と、彼は宮廷の事情を次のように話してくれました。

「今、わが国の状態は、外国人の眼には隆盛に見えるかもしれませんが、内幕は大へんなのです。一つは、国内に激しい党派争いがあり、もう一つは、ある極めて強い外敵から、わが国はねらわれていて、この二つの大事件に悩まされているのです。

まず、国内の争いの方から説明しますが、この国では、こゝ七十ヵ月以上というもの、トラメクサン党とスラメクサン党という、二つの政党があって、絶えず争っているのです。この党派の名前は、はいている靴の踵の高さからつけられたもので、踵の高いか、低いかによって区別されています。一般にわが国の昔からのしきたりでは、高い踵の方をいゝとしていました。

ところが、それなのに、皇帝陛下は、政府の方針として、低い踵の方ばかりを用いることに決められました。特に陛下の靴など、宮廷の誰の靴よりも一ドルル(ドルルは一インチの約十四分の一)だけ踵が低いのです。この二つの党派の争いは、大へん猛烈なもので、反対党の者とは、一しょに飲食もしなければ、話もしません。数ではトラメクサン、すなわち高党の方が多数なのですが、実際の勢力は、われ/\低党の方が握っています。

たゞ心配なのは、皇太子が、どうも高党の方に傾いていられるらしいのです。その証拠には、皇太子の靴は、一方の踵が他の一方の踵より高く、歩くたびにびっこをひいていられるのです。

ところが、こんな党派争いの最中に、われ/\はまた、ブレフスキュ島からの敵にねらわれ、脅かされているのです。ブレフスキュというのは、ちょうどこの国と同じぐらいの強国で、国の大きさからいっても、国力からいっても、ほとんど似たりよったりなのです。

あなたのお話によると、なんでも、この世界には、まだいろ/\国があって、あなたと同じぐらいの大きな人間が住んでいるそうですが、わが国の学者は大いに疑っていて、やはり、あなたは月の世界か、星の世界から落ちて来られたものだろうと考えています。それというのも、あなたのような人間が百人もいれば、わが国の果実も家畜も、すぐ食いつくされてしまうではありませんか。それに、この国六千月の歴史を調べてみても、リリパットとブレフスキュの二大国のほかに、国があるなどとは、本に書いてありません。

ところで、この二大国のことですが、この三十六ヵ月間というもの、実にしつこく、実にうるさく、戦争をつゞけているのです。事の起りというのは、こうなのです。もともと、われ/\が卵を食べるときには、その大きい方の端を割るのが、昔からのしきたりだったのです。

ところが、今の皇帝の祖父君が子供の頃、卵を食べようとして、習慣どおりの割り方をしたところ、小指に怪我をされました。さあ、大へんだというので、ときの皇帝は、こんな勅令を出されました。『卵は小さい方の端を割って食べよ。これにそむくものは、きびしく罰す。』と、このことは、きびしく国民に命令されました。だが、国民はこの命令をひどく厭がりました。歴史の伝えるところによると、このために、六回も内乱が起り、ある皇帝は、命を落されるし、ある皇帝は、退位されました。

ところが、この内乱というのは、いつでもブレフスキュ島の皇帝が、おだてゝやらせたのです。だから内乱が鎮まると、いつも謀反人はブレフスキュに逃げて行きました。とにかく、卵の小さい端を割るぐらいなら、死んだ方がましだといって、死刑にされたものが一万一千人からいます。この争いについては、何百冊も書物が出ていますが、大きい端の方がいゝと書いた本は、国民に読むことを禁止されています。また、大きい端の方がいゝと考える人は、官職につくこともできません。

ところで、ブレフスキュ島の皇帝は、こちらから逃げて行った謀反人たちを非常に大切にして、よく待遇するし、おまけに、こちらの反対派も、こっそりこれを応援するので、二大国の間に三十六ヵ月にわたる戦争がはじまったのです。その間にわが国は、四十隻の大船と多数の小舟と、それから、三万人の海陸兵を失いました。が、敵の損害は、それ以上だろうといわれています。

しかし、今また敵は新しく、大艦隊をとゝのえ、こちらに向って攻め入ろうとしています。それで、皇帝陛下は、あなたの勇気と力を非常に信頼されているので、このことを、あなたと相談してみてくれ、と言われ、私を差し向けられたのです。」

宮内大臣の話が終ると、私は彼にこう言いました。

「どうか陛下にそう伝えてください。私はどんな骨折でもいといません。しかし、私は外国人ですから、政党の争いのことには立ち入りたくありません。が、外敵に対してなら、陛下とこの国を守るために、命がけで戦いましょう。」

Chapter 4 of 23
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