Chapter 1 of 1

Chapter 1

夜はくだつ十一時、

霜さむく、圧しくる闇の気の凍に、

舞ひ疲れては黄塵も

しくしくと泣き湿り、

侘寝すらし。

色褪めし達摩像、

はた古りし徳利のやうに、つくねんと、

屑本のちりばふ中に

頸ほそう客を待つ

男、女

煤けたる帆木綿に

一品と文字も寂しく、灯は曇り、

皿道具鳴る中へ、つと、

忍びよる黒き物――

巡査なりき。

火の番の拍子木の

後方より『鍋焼うどん』、また来るは、

よきこゑの『恋の辻占』

鮭さげて小走りの

町の若衆。

炭俵、はた薪か、

河岸遠く、をりから物の落つる音、

犬の声、さはれ五分時、

濁水は音もなく

西へ流る。

●図書カード

Chapter 1 of 1