Chapter 1 of 101

わがゆく海

わがゆくかたは、月明りさし入るなべに、

さはら木は腕だるげに伏し沈み、

赤目柏はしのび音に葉ぞ泣きそぼち、

石楠花は息づく深山、――『寂靜』と、

『沈默』のあぐむ森ならじ。

わがゆくかたは、野胡桃の實は笑みこぼれ、

黄金なす柑子は枝にたわわなる

新墾小野のあらき畑、草くだものの

釀酒は小甕にかをる、――『休息』と、

『うまし宴會』の塲ならじ。

わがゆくかたは、末枯の葦の葉ごしに、

爛眼の入日の日ざしひたひたと、

水錆の面にまたたくに見ぞ醉ひしれて、

姥鷺はさしぐむ水沼、――『歎かひ』と、

『追懷』のすむ郷ならじ。

わがゆくかたは、八百合の潮ざゐどよむ

遠つ海や、――あゝ、朝發き、水脈曳の

神こそ立てれ、荒御魂、勇魚とる子が

日黒みの廣き肩して、いざ『慈悲』と、

『努力』の帆をと呼びたまふ。

Chapter 1 of 101