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ジーキル博士とハイド氏の怪事件
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ジーキル博士とハイド氏の怪事件
スティーブンソンロバート・ルイス
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Translation Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 4 of 13

ジーキル博士は全く安らかであった

それから二週間ほどたつと、大へん好都合にも、博士は五六人の親しい旧友を招いて、いつもの楽しい晩餐会を催した。みんな聡明な、名声ある人々であり、みんなよい酒の味のわかる連中であった。そしてアッタスン氏は、ほかの人々が帰ってしまった後までも自分で居残るように仕向けた。これは何も初めてのことではなく、それまでに何十回もあったことであった。アッタスンは、好かれるところでは、非常に好かれた。彼を招いた人たちは気さくな連中やおしゃべりな連中がとっくに家へ帰ってしまってからも、この無愛想な弁護士をひき留めておくことを好んだ。彼らは、思い切り陽気にはしゃいだ後に、しばらくこの控え目な客と向い合って坐り、この男の貴い沈黙によって淋しさに慣れるようにし、自分の心を冷静に落着かせることを好んだのである。このしきたりには、ジーキル博士も例外ではなかった。で、いま彼が炉をへだてて坐っていると、――大柄な、体の格好のよい、鬚のない五十ばかりの男で、かくれ遊びも多少あるかも知れないが、いかにも才能があり親切そうな人である――その顔付きから見ても彼がアッタスン氏に対して心からの温かい愛情を抱いていることがわかった。

「僕は君に話したいと思っていたのだがね、ジーキル、」とアッタスン氏が切り出した。「君のあの遺言書のことを君は覚えているだろうね?」

この話題が気に入らぬことは、細かに注意して見る人にはすぐに察しられたであろう。が、博士は快活に受け流した。「気の毒だね、アッタスン、」と彼が言った。「こんな依頼人を持って君は不幸だね。僕の遺言書で、君が困っているほど困っている人間ってのは見たことがないよ。もっとも、あの頑迷な衒学者のラニョンが、彼のいわゆる僕の科学的異端で困っているがね。いや、彼がいい男だということは知ってるさ、――そんなに顔をしかめなくたっていいよ、なかなか立派な男で、僕も彼にはもっと会いたいといつも思っているんだ。しかしそれでもやはり頑迷な衒学者さ。無学な、やかましい衒学者さ。あのラニョンくらい僕を失望させた人間はなかったよ。」

「僕が、あれにはどうしても賛成できないということを、君は知っている筈だ、」とアッタスンは、その新しい話題をあっさり無視して言葉を続けた。

「僕の遺言書のことか? うん、たしかに、覚えている、」とちょっと鋭い調子で博士が言った。「君は僕にそう言ったことがあるよ。」

「では、もう一度そう言うよ、」と弁護士は続けた。「僕はハイドという若者のことが多少わかってきたのでね。」

ジーキル博士の大きな、立派な顔は唇までも真っ蒼になり、眼のあたりには険しい色があらわれた。「僕はそれ以上聞きたくないのだ、」と彼が言った。「それは我々が言わないことに約束したことだと思うがね。」

「僕の聞いたのは怪しからんことなのだ、」とアッタスンが言った。

「それにしたって同じことだ。君には僕の立場がわからないんだよ、」と博士は何となく辻褄の合わぬような様子で答えた。「僕は苦しい立場にいるんだよ、アッタスン。僕の立場は大変妙な――大変妙な立場なんだ。それは話したってどうにもならないような事情なんだ。」

「ジーキル、」とアッタスンが言った。「君は僕を知っているはずだ。僕は信頼して貰ってもよい人間だ。そのことを内証ですっかりうち明けてくれ給え。そうすれば僕はきっと君をそれから救ってあげられると思うのだ。」

「ねえ、アッタスン、」と博士が言った。「君は実に親切だ。君は全く親切だ。何と言ってお礼を言っていいかわからない。僕は君を十分に信じている。僕はどんな人間よりも君を信頼したいのだ。いや、どっちかと言えば、自分自身よりも君を信頼したいのだ。しかし、全くのところ、あれは君の想像しているようなことじゃないんだよ。そんなにひどいことではないのだ。で、ただ君を安心させるだけのために、一つのことを言ってあげよう。僕はそうしようと思う時にはいつでも、ハイド氏と手を切ることができるのだ。そのことを僕は誓うよ。君には幾重にも感謝する。それから、ちょっと一言だけ付け加えておきたいんだがね、アッタスン。きっと君はそれを悪くはとらないだろうと思うんだが。それは、このことは一身上の事柄なのだから、どうかうっちゃっておいて貰いたい、ということなんだ。」

アッタスンは炉火を見ながらしばらく考えていた。

「君の言うことが至極もっともだということは疑わないよ、」とついに彼は言って、立ち上った。

「それはそうとして、我々がこの件に触れたからには、そして触れるのももうこれっきりにしたいものだが、」と博士は続けた。「君に解って貰いたい事が一つあるのだ。僕は可哀そうなハイドのことをほんとうに非常に気にかけているのだ。君があの男に会ったことは僕は知っている。彼が僕にそう言ったから。で彼が不作法なことをしはしなかったかと僕は気遣っている。しかし僕は、実際、心からあの若者のことをひどく、とてもひどく気にかけているんだ。それで、もし僕が死んだら、ねえ、アッタスン。君が彼を我慢してやって彼の権利を彼のために取ってやると、僕に約束してほしいのだがね。もし君がすべてを知ったなら、そうしてくれるだろうと思うのだ。そして、君がその約束をしてくれるなら、僕の心から重荷が下りるのだが。」

「僕はあの男をいつか好きになれそうな風をすることはできないね、」と弁護士が言った。

「僕はそんなことを頼んでいるんじゃないよ、」とジーキルは相手の腕に手をかけながら懇願した。「僕はただ正当な取扱いを頼んでいるだけなんだ。僕がもうこの世にいなくなった時に、僕のために彼の助けになってやって貰いたいと頼んでいるだけなんだよ。」

アッタスンは抑えきれない溜息をもらした。「よろしい。約束する、」と彼は言った。

Chapter 4 of 13
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