Back
五百五十句
Table of Contents
五百五十句
高浜虚子
Reading Settings
Font size
18px
Theme
Light
Dark
Sepia
Eye care
Line spacing
Reading mode
Translation Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 4 of 6

昭和十三年

初句会浮世話をするよりも

一月一日 旭川、年尾、友次郎と共に初句会。

粛々と群聚はすゝむ初詣

清浄の空や一羽の寒鴉

一月二日 武蔵野探勝会。明治神宮初詣。日本青年館。

褄とりて独り静に羽子をつく

一月三日 向島弘福寺。旭川、秋琴女歓迎。

焚火かなし消えんとすれば育てられ

追羽子のいづれも上手姉妹

一月七日 家庭俳句会。百花園、千歳。

せはしなく暮れ行く老の短き日

一月八日 二百二十日会。木挽町、田中家。

爛々と暁の明星浮寝鳥

一月十日 夜。大崎会。丸ビル集会室。

水餅の壺の蓋とる窓明り

一月十四日 草樹会。丸ビル集会室。

寒肥を皆やりにけり梅桜

春水や子を抛る真似しては止め

一月二十一日 家庭俳句会。日比谷公園。

人形の前に崩れぬ寒牡丹

何事の頼みなけれど春を待つ

一月二十四日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。

床の花已に古びや松の内

一月二十七日 「玉藻十句集(第十二回)」

畦一つ飛び越え羽搏つ寒鴉

凍鶴の首を伸して丈高き

一月二十七日 丸之内倶楽部俳句会。

焚火してくれる情に当りもし

一月三十日 句謡会。百花園、千歳。

旗のごとなびく冬日をふと見たり

二月四日 家庭俳句会。小石川植物園。

小ざつぱりしたる身なりや針納

町娘笑みかはし行く針供養

二月七日 二百二十日会。白山招宴。銀茶寮。

病にも色あらば黄や春の風邪

二月十二日 草樹会。丸ビル集会室。

猫柳又現はれし漁翁かな

二月十四日 笹鳴会。丸ビル集会室。

春宵をあだに過ぎなば悔あらん

二月十五日 奈王招宴。新橋灘万。

猫柳ほゝけし上にかゝれる日

うしほ今和布を東に流しをり

潮の中和布を刈る鎌の行くが見ゆ

二月十九日 発行所例会。丸ビル集会室。

提灯の照らせる空や夜の梅

二月二十日 鳴雪十三回忌を修す。丸之内倶楽部日本間。

橋に立てば春水我に向つて来

三月六日 武蔵野探勝会。和田堀、明治大学、本願寺墓地等。

煎つてゐる雛のあられの花咲きつ

遠ざけて引寄せもする春火桶

三月七日 二百二十日会。銀座五丁目東仲通、菊の家。

啓蟄や日はふりそゝぐ矢の如く

三月十一日 草樹会。丸ビル集会室。

桜貝波にものいひ拾ひ居る

朧夜や男女行きかひ/\て

三月二十四日 丸之内倶楽部俳句会。

竹林に黄なる春日を仰ぎけり

藁屋根に春空青くそひ下る

三月二十五日 鎌倉俳句会。名越、立正安国論寺。

鬱々と花暗く人病みにけり

四月三日 武蔵野探勝会。神代村、深大寺。

彼の女春日まぶしく瞬けり

四月四日 二百二十日会。深沢、水竹居邸。

肴屑俎にあり花の宿

語り伝へ謡ひ伝へて梅若忌

忌日あり碑あり梅若物語

四月十一日 大崎会。富士見町、三輪女邸。

垣外の暮春の道の小さゝよ

四月二十一日 鎌倉俳句会。山の内、浄智寺。

遠足の野路の子供の列途切れ

四月二十五日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。

手を上げて別るゝ時の春の月

四月二十八日 「玉藻十句集(第十五回)」

杉落葉して境内の広さかな

四月二十八日 丸之内倶楽部俳句会。

春闌暑しといふは勿体なし

五月一日 武蔵野探勝会。小石川後楽園、涵徳亭。

分け行けば躑躅の花粉袖にあり

五月六日 家庭俳句会。駒込、六義園。

夏暖簾垂れて静に紋所

五月十三日 銀座探勝会。松屋七階貴賓室。

バスの棚の夏帽のよく落ること

五月十七日 佐渡に一遊。

校服の少女汗くさく活溌に

六月三日 家庭俳句会。日比谷公園。

鵜の森のあはれにも亦騒がしく

六月五日 武蔵野探勝会。千葉在大巌寺、鵜の森。

新しき蚊帳板のごと釣られけり

六月十日 草樹会。丸ビル集会室。

梅雨傘をさげて丸ビル通り抜け

六月十七日 家庭俳句会。丸ビル写生。

欄干に江山低し蚤ふるふ

六月十八日 発行所例会。丸ビル集会室。

休んだり休まなんだり梅雨工事

六月二十日 田中家招宴。

我思ふまゝに孑孑うき沈み

六月二十三日 丸之内倶楽部俳句会。

箱庭の月日あり世の月日なし

己が羽の抜けしを啣へ羽抜鳥

六月二十四日 鎌倉俳句会。深沢村、寺分、陣出園温泉宿。

聞えざる涼み芝居を唯見をり

七月四日 二百二十日会。浅草仲見世、万屋。女剣劇大江美智子一座。

桃葉湯丁稚つれたる御寮人

滴りの岩屋の仏花奉る

七月八日 草樹会。丸ビル集会室。

句拾ふや芒さゝやき露語る

蕋の朱が花弁にしみて孔雀草

虻と蝶向合ひすがる九階草

七月九日 句謡会。百花園、千歳。

雑沓の中に草市立つらしき

七月十二日 銀座探勝会。東海堂屋上、朝顔を見る。ついで東海堂主人の本宅に招ぜらる。

泣きじやくりして髪洗ふ娘かな

喜びにつけ憂きにつけ髪洗ふ

七月二十五日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。

端居して垣の外面の世を見居る

七月二十七日 「玉藻十句集(第十八回)」

晩涼や謡の会も番すゝみ

八月二十一日 あるじ慰問、句謡会。本田あふひ邸。

破れ傘さして遊ぶ子秋の雨

病人に野分の夜を守りけり

九月一日 家庭俳句会。あふひ居。

棟並めて早稲田大学秋の空

九月七日 七宝会。小石川高田豊川町、田原久吉邸。

友を葬る老の残暑の汗を見る

面やつれしてかつ/\と夜食かな

九月九日 草樹会。丸ビル集会室。

夜半に起き娘が宿を訪ふ野分かな

九月十二日 笹鳴会。丸ビル集会室。

紫蘇の実を鋏の鈴の鳴りて摘む

九月十六日 家庭俳句会。あふひ邸。

砧盤あり差出す灯の下に

山河こゝに集り来り下り簗

九月二十二日 丸之内倶楽部俳句会。

秋風や心の中の幾山河

九月二十九日 「玉藻十句集(第二十回)」

一面に月の江口の舞台かな

目のあたり月の遊女の船遊び

十月二日 武蔵野探勝会。宝生能楽堂に野口兼資の「江口」を観る。

もの置けばそこに生れぬ秋の蔭

十月三日 二百二十日会。木挽町、田中家。

何某に扮して月に歩きをり

須く月の一句の主たれ

十月八日 観月句会。大船、松竹撮影所。

嗜まねど温め酒はよき名なり

十月十日 夜。大崎会。丸ビル集会室。

夕闇の蘆荻音なく舟著きぬ

十月十五日 発行所例会。丸ビル集会室。

肌寒も残る寒さも身一つ

十月二十日 一行の中に年尾も加はり、高松栗林公園内、掬月亭俳句会。此夜高松古新町かしく泊。善通寺に正一郎伍長を訪ふ。

歴史悲し聞いては忘る老の秋

十月二十一日 屋島に遊ぶ。

病床の人訪ふたびに秋深し

十月二十五日 家庭俳句会。あふひ居。

並び陥つ広東武漢秋二つ

悦びに戦く老の温め酒

十月二十五日 東京朝日新聞より需めらるゝまゝに武漢陥落を祝す句のうち。

真東に向はしめたる像の秋

これよりや時雨落葉と忙がしき

十一月三日 武蔵調布上布田三〇四、新田霞霧園隣地、虚子胸像除幕式。

つやゝかな竹の床几を菊に置く

十一月六日 武蔵野探勝会。小金井、大正園。

我静なれば蜻蛉来てとまる

十一月七日 二百二十日会。清水谷公園、皆香園。

凍蝶の眉高々とあはれなり

十一月十四日 笹鳴会。丸ビル集会室。

手拭にうち払ひつゝ夕時雨

十一月二十六日 「玉藻十句集(第二十二回)」

焚火そだてながら心は人を追ふ

右手は勇左手は仁や懐手

十一月二十八日 玉藻俳句会。丸ビル集会室。

大枯木己が落葉を慕ひ立つ

十一月三十日 比古、立子、汀女、香雲と共に小石川植物園。

焚火そだてゐたりしが立ち歩み去る

十二月二日 家庭俳句会。あふひ邸。

枯萩の立ちよれば粗に遠のけば

掃きしあと落葉を急ぐ大樹かな

十二月四日 武蔵野探勝会。小石川植物園。共同印刷会社三階会議室。

うらむ気は更にあらずよ冷たき手

十二月九日 草樹会。丸ビル集会室。

草庵に温石の暖唯一つ

十二月十日 句謡会。あふひ邸。

老はものの何か忙がし短き日

十二月十二日 笹鳴会。丸ビル集会室。

白眼に互に日向ぼこりかな

十二月十二日 夜。大崎会。丸ビル集会室。

襟巻に深く埋もれ帰去来

十二月十八日 和歌山市外三田和田、竈山神社献句式帰路車中。

山端は寒し素逝を顧みし

十二月十九日 京都山端平八に行く。素逝、王城、比古、年尾、紫尹と共に。

背布団狆に著せ紐長く持ち

十二月二十日 京饌寮。王城、比古、三千女と共に。

金屏にともし火の濃きところかな

十二月二十一日 「玉藻十句集(第二十三回)」

Chapter 4 of 6
|