昭和三十二年
冬日あり実に頼もしき限りかな
一月十七日
岩壁に這ひ上る如落葉積み
一月二十九日 玉藻会。英勝寺。
我れが行く天地万象凍てし中
落椿紅白にして尽大地
その後とは花に別れし後の事
大麻唯男氏を悼む君が来し門椿咲きつゞきをり
二月十一日
東山西山こめて花の京
二月二十五日 「東山」新発行所を得、橙重に贈る。
謡ひやめ雛の客を迎へけり
世直りて草の庵の雛祭り
三月三日 おはん、小時、実花来り、老妻慰藉。
或る時は梅幽かなる日和かな
傍らに人無き如く梅にあり
三月七日 どうだん会。好々亭。
閉ざしたる老の我儘梅が門
三月十一日 偶成。
三笠宮両殿下に北極の春の御空は如何なりし
三月十五日
咳一つ彼もこぼしぬ春の風邪
三月十七日 土筆会。草庵。
焚かである春の煖炉のさうざうし
三月十八日 句謡会。高木宅。
離々として鬱々として春の草
三月二十一日 上海すみれ会。二ノ鳥居前、浅羽屋支店。
雪残る村の小家を打ち囲み
四月五日 金沢行。妙高附近。
春暁の時の太鼓や旧城下
四月六日 前夜高木泊。畠山招宴、謡会。金沢鍔甚。
こゝに来て百万石の花見せん
姉妹の著物貸し借り花の旅
四月八日 句謡会。高木宅。
立山の其の連峰の雪解水
この旅や故人の墓に皆無沙汰
四月九日 福野行。
花の雨強くなりつゝ明るさよ
四月十日 金沢、あらうみ句会。
嘗て手を握りし別れ墓参り
四月十一日 松任在北安田、明達寺。松任、聖興寺。金沢、浄誓寺を訪ふ。
月尚和尚なつかしき仏なりけり詣りけり
起きぬけの気むつかしさや花の雨
四月十一日
花七日それも過ぎ来し月日かな
妙高の雪は雲間にまかゞやき
四月十二日 帰途。
草の戸を叩きて又も花の雨
四月十四日 草樹会。大仏殿。
清閑といふばかりなり花下に僧
四月十五日 成田行。
春雨の音に目ざめし旅がへり
四月十七日 物芽会。英勝寺。
花にやゝ遅れたれども鐘供養
四月十九日 大崎会。英勝寺。
唯今只春日爛干蝶も飛ばず
四月二十一日 新人会。草庵。
春霞永久に羽衣物語
四月二十九日 兄、池内信嘉追善能。記念一句。
草原に蛇ゐる風の吹きにけり
五月五日 銀行協会俳句会。建長寺。
年を経し我が身なりけり明易き
五月十二日 草樹会。大仏殿。
毛虫ゐる樹下と思ひて立ち止り
五月十三日 句謡会。高木邸。
大夏木打ち立てりけり我れ思惟
五月十五日 物芽会。英勝寺。
更衣小者はしたに至るまで
五月十九日 土筆会。草庵。
線と丸電信棒と田植傘
夏草に埃の如き蝶の飛ぶ
五月二十七日 新潟行。室長泊り。二十八日、赤羽岳王居俳句会。岳王招宴。行成亭。
しわ/\と鴉飛びゆく田植かな
五月二十九日 新潟、橋本春霞居俳句会。春霞招宴。
前山の緑かたまり庭に飛び
六月九日 草樹会。大仏殿。
なすことも無く昼灯五月雨
六月十二日 大崎会。英勝寺。
車降り我と夏木と佇みぬ
六月十四日 物芽会。覚円寺。
打たんとてもの憂き蠅を只見たり
六月十六日 土筆会。草庵。
春蝉や嘗て住みたる比叡の奥
六月十七日 宝文会。東京杉並、米川邸。
夏至今日と思ひつゝ書を閉ぢにけり
六月二十三日
月落つる西の空我が古里と
七月十日 偶成。
母がせし掛香とかやなつかしき
掛香の女男も昔かな
七月十三日 土筆会。鹿野山神野寺。
かびの香に昼寐してをり山の坊
三方に庭石分れ蜥蜴をり
大景を座断してをる籐椅子かな
黴の香の寺に僧俗住めりけり
七月十四日 同。
昼寐せん行蔵すべて意のまゝに
昼寐する我と逆さに蠅叩
新しく全き棕櫚の蠅叩
同日 もの芽会。
湯を出でゝ満山の涼我に在り
七月十五日 同。
籐椅子は禅榻蠅叩は打棒
我生の美しき虹皆消えぬ
同日 大崎会。
夏山に対して朝の息をする
七月十六日 同。
俳諧の灯のともりけり月見草
風生と死の話して涼しさよ
七月二十九日 地元句会。山中湖畔、山廬。
こゝに小さき避暑の山廬のある故に
七月三十日 草笛会。山中湖畔、山廬。
朝の蜘蛛殺さで払ふ避暑の荘
七月三十一日 句謡会。
年々に月見草咲き家建たず
避暑に来てもつとも暑き日と思ふ
同日 草笛会。
虎杖の花に牧歌の生れけり
八月一日 草樹会。山中湖畔、山廬。
夏山の姿正しき俳句かな
同日 上海すみれ会。
山荘のテラス暫く炎天下
八月二日 同。
顔せは汗にまみれてゐて涼し
同日 稽古会。
雨戸引き忘れて銀河山の庵
避暑の荘富士山を皆持つてゐる
八月三日 同。
忘るゝが故に健康ほとゝぎす
八月四日 同。
天の川雨戸の外にかゝりけり
一布衣となりて銀河を仰ぎけり
志成ると銀河を仰ぎけり
九月二日 大久保橙青主催、唐沢樹子法務大臣就任祝賀会。鎌倉、和光。
颱風の残りの風や歯を磨く
九月八日 二百二十日会。和光。
ほどけゆく一塊の雲秋の空
秋の雲大仏の上に結び解け
九月十五日 草樹会。大仏殿。
朝顔を一輪挿に二輪かな
九月二十二日 土筆会。草庵。
萩叢の露万斛と讃へけり
九月二十五日 句謡会。高木邸。
秋の雲浮みて過ぎて見せにけり
十月二日 京都東山橙重居。知恩院の句碑を見、橙重庵の句碑を見る。立子と共に。
松原の続く限りの秋の晴
十月四日 敦賀行。立子と共に。気比の松原。
(二村は地名)二村は刈田二枚に三世帯
十月五日 芭蕉の遊びたる色ヶ浜に遊ぶ。
芭蕉忌の燭の芯剪る坊が妻
秋風にもし色あらば色ヶ浜
十月五日 色ヶ浜本隆寺。芭蕉忌法要。
塀の上の高き目隠し小鳥来る
十月六日 京都に行く。柊屋泊り。十月七日、年尾居に行く。玉藻句会。盲泊月来る。
十四日月明らかに君は逝く
十月七日 柳原極堂死す。(陰暦八月十四日。子規の逝きたるは同じく陰暦十七日なりし)
匂やかに少し濁りぬ秋の空
十月十三日 草樹会。大仏殿。
秋の空濁るといふにあらねども
十月十六日 大崎会。英勝寺。
露もなく枯れ/\にある萩の叢
露の玉抱き隠せる小草かな
十月二十八日 句謡会。高木邸。
静なる落葉の下にわれは在り
十一月九日 大仏句会。大仏殿。
わが袖にふと現れし秋の蝶
十一月十日 草樹会。大仏殿。
年々の枯萩の色見はやさん
枯菊に愚かな杖の立てゝあり
十一月十八日 山口笙堂、鹿野山住職就任祝賀会。華正楼。
掃く時も佇む時も落葉降る
十一月二十日 大崎会。英勝寺。
庭真中主が愛す萩黄葉
十一月二十四日 土筆会。草庵。
我が庭や冬日健康冬木健康
十一月二十五日 草笛会。覚円寺。
彼の人に書きもするなり年始状
三ヶ日昔恋しと遊びけり
貧乏の昔恋しや三ヶ日
十二月一日 偶成。
枯萩を刈りのけし跡萩の塵
十二月八日 草樹会。八幡、二ノ鳥居前、浅羽屋支店。
祖母の世の裏打ちしたる絵双六
十二月九日 偶成。
冬枯の庭淋しさや下りて見る
十二月十一日 物芽会。長谷、浅羽屋本店。
去年今年我れ信ずるが故にかな
ほこ/\と落葉が土になりしかな
十二月十二日 偶成。
斯くの如く只ありて食ふ雑煮かな
園丁の鉈の切れ味枯枝飛び
十二月二十七日 十五人会。三十日、晦日会。其他。