Back
六百句
Table of Contents
六百句
高浜虚子
Reading Settings
Font size
18px
Theme
Light
Dark
Sepia
Eye care
Line spacing
Reading mode
Translation Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 6 of 6

昭和二十年

凍てきびしされども空に冬日厳

一月四日 毎日新聞より暦の句を徴されて。

彼の道に黒きは雪の友ならん

蓆垂れ雪の伏屋といふ姿

山道に雪かかれある小家かな

一月七日 土筆会。小諸山廬。

雪踏みて乾ける落葉現はれぬ

一月八日 長野ホトトギス会員来る。小諸山廬。

榾の火の大旆のごとはためきぬ

一月十一日 九羊会。鎌倉、星野宅。

枯菊も留守守るものの一つかな

枯菊に尚色といふもの存す

必ずしも小諸の炬燵悪しからず

一月十四日 句謡会。鎌倉草庵。

一冬の寒さ凌ぎし借頭巾

一月二十七日 在小諸。即事。

老犬の我を嗅ぎ去る枯木中

一月二十九日 小諸、懐古園。

鶏にやる田芹摘みにと来し我ぞ

二月一日 在小諸。即事。

雪深く心はづみて唯歩く

雪の道草臥れし時杖をとめ

二月六日 在小諸。即事。

書読むは無為の一つや置炬燵

二月十日 即事。

吹く風は寒くとも暖遅くとも

二月十一日 毎日新聞社より暦の句を徴されて。

春潮にたとひ艪櫂は重くとも

二月十五日 年尾長女中子、興健女子専門学校に入学の志望あり。試験を受く。

四方の戸のがた/\鳴りて雪解風

三月六日 長野ホトトギス会。小諸山廬。

風多き小諸の春は住み憂かり

蓼科に春の雲今動きをり

三月十一日 在小諸。即事。

見事なる生椎茸に岩魚添へ

三月十六日 在小諸。即事。

目薄くなりて故郷の梅に住む

四月十三日 在小諸。岩木つゝじに贈る。

紅梅や旅人我になつかしく

四月十四日 在小諸。懐古園に遊ぶ。

雪解水林へだてて二流れ

四月十五日 沓掛千ヶ滝。

誘はれて祭の客となりにけり

四月十六日 中込、市川富雄宅。

木蓮を折りかつぎ来る山がへり

四月十八日 在小諸。即事。

我が作る田はこれ/\と春の風

四月十八日 塩名田、臼田恵之助を訪ふ。

城壁にもたれて花見疲れかな

四月二十五日 前橋、豊田宗作居一泊。

春雷や傘を借りたる野路の家

四月二十七日 村上村上平、杜子美居の祭に招かる。

耕の鍬かたげつつ訪ひよりぬ

五月八日 杞陽、芙蓉来る。小諸山廬。

山国の蝶を荒しと思はずや

紙魚のあとひさしのひの字しの字かな

五月十四日 年尾、比古来る。小諸山廬。

兵燹を逃れて山の月の庵

五月二十七日 北軽井沢に桜間、野上両家を訪ふ。

麦の出来悪しと鳴くや行々子

夏草に延びてからまる牛の舌

六月三日 桃花会。小諸山廬。

田植見に西蒲原に来し我等

六月十二日 新潟在味方村笹川邸にて大雪崩会。

蝙蝠にかなしき母の子守歌

七月一日 桃花会。小諸山廬。

木の形変りし闇や蛍狩

山と藪相迫りつつ蛍狩

提灯を借りて帰りぬ蛍狩

提灯をさし出し照す蛍沢

七月十六日 在小諸、沢の蛍狩。立子、迷子、小蔦と共に。

浅間嶺の一つ雷訃を報ず

八月四日 在小諸。矢野麻女の訃至る。

秋蝉も泣き蓑虫も泣くのみぞ

敵といふもの今は無し秋の月

黎明を思ひ軒端の秋簾見る

八月二十二日 在小諸。詔勅を拝し奉りて。朝日新聞の需めに応じて。

更級や姨捨山の月ぞこれ

今朝は早薪割る音や月の宿

九月二十二日 姨捨行。

ここに住み又秋風の寒き頃

寒き故此の秋風の好もしく

十月七日 在小諸。桃花会。土地の人の会と合併。小山五郎居。

日のくれと子供が言ひて秋の暮

ここに住む我子訪ひけり十三夜

十月十九日 調布。友次郎居。

深秋といふことのあり人も亦

十月二十一日 鎌倉草庵、小句会。

大根を干し甘藷を干しすぐ日かげ

十月二十七日 小諸山廬。長野ホトトギス会員来る。

木々の霧柔かに延びちぢみかな

さかしまに樽置き上に冬菜置き

十一月三日 土筆会。小諸山廬。

大根を鷲づかみにし五六本

十一月四日 土筆会。

船人は時雨見上げてやりすごし

朽船をめぐりて菜屑去り難な

十一月五日 越前三国、愛子居。

老の杖運びて果す墓参り

十一月八日 丹波竹田、西山謙三宅。

菊の館五男それ/″\手をついて

十一月十日 但馬豊岡、京極杞陽邸。

秋晴や或は先祖の墓を撫し

草紅葉しぬと素顔を顧みて

十一月十一日 但馬和田山、安積素顔邸。

夕紅葉色失ふを見つつあり

十一月十五日 名古屋八勝館、納屋橋句会。

聞き役の炬燵話の一人かな

十一月二十五日 戸倉温泉。長野ホトトギス会。

寒からん山廬の我を訪ふ人は

炬燵出ずもてなす心ありながら

十一月二十七日 小諸山廬に素十、杞陽、春泥、芙蓉落合ふ。

来し人の我庭時雨見上げたる

二三子と木の葉散り飛ぶ坂を行く

十一月二十九日 在小諸。三河、棚尾ホトトギス連中来る。

冬籠座右に千枚どうしかな

冬籠心を籠めて手紙書く

十二月二日 桃花会。小諸山廬。

冬の日の尚ある力菊残る

この辺は蚕の村か桑枯るる

山越えて来たり峠は雪なりし

十二月五日 松本浅間温泉たかの湯、松本俳句会。

炬燵にもあだには時を過ごすまじ

句を玉と暖めてをる炬燵かな

十二月六日 松本浅間温泉たかの湯、松本俳句会。

片頬に冬日ありつつ裏山へ

枯蔓の尖は左の目にありて

十二月二十日 玉藻俳句会。鎌倉長谷、諸戸邸。

枯菊の色をたづねて虻来たる

どこやらに急に逃げたる冬日かな

十二月二十一日 土筆会。鎌倉草庵。

山茶花の花のこぼれに掃きとどむ

十二月二十二日 句謡会、鎌倉俳句会合併。

枯菊に莚のはしのかかりけり

冬枯の園とはいへど老の松

十二月二十三日 埼玉県不動岡、岡安迷子居、子会。

うせものをこだわり探す日短か

思ふこと書信に飛ばし冬籠

十二月二十七日 立子、泰、迷子、孔甫、花守と共に稽古会をはじむ。小諸山廬。

●図書カード

Chapter 6 of 6
|