Chapter 3 of 7
傀儡師
…………大阪をたちのいても、わたしが姿眼に たてば、借行輿に日をおくり………………口三味線の浄瑠璃が庭の飛石づたひにちかづいてくるのを、すぐ私どもはきヽつけました。五十三次の絵双六をなげだして、障子を細目にあけた姉の袂のしたからそつと外面をみました。
四十ばかりの漢でした、頭には浅黄のヅキンをかぶり、身には墨染のキモノをつけ、手も足もカウカケにつヽんでゐました、その眼は、遠い国の藍い海をおもはせるやうにかヾやいてゐました。棒のさきには、鎧をきたサムライや、赤い振袖をきたオイランがだらりと首も手をたれてゐました。
漢は自分のかたる浄瑠璃に、さも情がうつったやうな身振をして人形をつかつてゐました。
赤い襠をきた人形は、白い手拭のしたに黒い眸をみひらいて、遠くきた旅をおもひやるやうに顔をふりあげました。
…………奈良の旅籠や三輪の茶屋………… 五日、三日夜をあかし…………と指おりかぞえ
…………二十日あまりに四十両、つかひはたし て二歩のこる、金ゆへ大事の忠兵衛さ ん…………といつて、傍らに首をたれた忠兵衛をみやつたガラスの眼には泪があるのかとおもはれました。
…………科人にしたもわたしから、さぞにくかろう お腹もたとう…………思ひせまつて梅川は、袖をだいてよろ/\よろ、私の方へよろめいて、はつと踏みとまつて、手をあげた時、白い指がかちりと鳴つたのです。
私は泣きながら奥へはしりこみました。