Chapter 1
食慾が針のように空らっぽの胃を刺激するかつての日の満腹は夢のようだ生きるために食うのか?食うために生きるのか?どちらでもいい ここで議論は胃を満たさないおれたちは飢え渇えている
凧! 糸の切れた凧だ!生存が切断される 同志よおれたちは要求する 一握のめしを! 麺麭を!おれたちは食物を乞うのでない生きてるゆえに 飢え渇えている者の要求だおれたちは団結しよう! 生存を脅かされている同志よ力は団結の上に!
生産者は飢え貧困は骨を肉をそいでいる搾取者は満腹し豚のように喘いでいる飢えたる同志よ 要求しよう 俺達の生存を!反抗し 幕をたたっきれ!鎖を! 重い鍵を!覆える白き手を!
自動車の爆音が美装した貴婦人の着物が 指環がおれたちの頭上で舞踏しているダンス・マカーブル、……グルルル……ロンド!その足踏が!おれたちの胃の腑を空らっぽにしたんだ慾望が忍従を棄てて生長した燃える食慾 空らっぽの胃の腑は夢をみる何?……何!
団結! その力の勝利!おれたちの手に麺麭!誰から? おれたちの握り合った手だ神 僧侶 寺院 政府 資本家そいつらからめしが麺麭が来たか?いや、おれたちの手で おれたちの力で同志よ! 掠奪された麺麭を握ろう
恩恵の一滴は過去の夢だ慈善の報告が誇らかに巷に伝わっているだがああ 日々おれたちは食慾に追跡されて空らっぽの胃をたずさえて都会の街路を彷徨する
無数の慈善院 養老院 孤児院 施設病院そいつらは高い看板を都会から始って地方に立てている
搾取者の寄付金か? くそ!いかめしい施療病院の煩雑な規則に貧しい病人が殺されているんだ
敗残者の手が橋の上で食物を乞うている疲れ 餓えた老人と子供の目が芥箱を探り 街路にうつむいている工場で蒼白い女工が死んだ 男工の自殺だかれらの遺族がヒステリックに泣いている都会へ密集した田舎の失業者は狼――人夫請負業者に遠い北海道の雪の中に虐殺されている無宿者は公園の露台の上に!そのむさぼる夢は警官の剣に脅えている
肥った人は肥ってゆき瘠せた人は死んでゆくこの対照 この事実!
ああ食慾は針のようだ食物を求めて開いたおれたちの口は塞がらない満腹の期待は空しく裏切られて 空腹だ餓えた胃は食物をかつ望する旱魃の土地は水分を期待する
おお あの倉庫には食料品が充満している路傍の商店には食物が陳列されているだがおれたちは日々に餓えている餓えたる同志よ! 団結だ! 生存の主張だ団結こそ力の原動力だ無数のおれたちの手をさし延べて倉庫に積まれた食料を握ろう(『鎖』一九二三年七月号に発表 『陀田勘助詩集』を底本)
●図書カード