先生と生徒
生徒 先生、私たちは何のために文法を学ぶのですか。先生 君たちが、正しく文章を読んだり、書いたりするためです。それには、ことばのきまり(法則、規則)をよく知つてゐなければいけません。文法はそのやうな法則を学ぶ学科です。生徒 でも、私たちは、ことばの法則を知らなくても、話をすることも、読むことも出来るやうに思ひますが……先生 確かにさうです。君たちは、もう、ことばの法則を自然におぼえて、書くことも読むことも出来るやうになつてゐるのです。しかし、君たちは、まだ自分のことばが、どのやうな法則に従つてゐるかといふことを、反省したり、研究してみようと思つたことはないでせう。又どのやうに読むのが正しいか、どのやうに書くのが正しいかといふことを、はつきりと意識することが出来るやうにはなつてゐないでせう。つまり自覚して、ことばを使ふといふやうにはなつてゐないのです。生徒 ことばのいろ/\な法則を知つて、ことばが使へるやうになれば、大変いいことだと思ひますが、どうして、ことばの法則を知るといふことが、そんなに大切なことなのですか。先生 大変にいい質問ですね。自分たちの勉強することに、はつきりした意味を見出さうとすることは、いつでも大切なことです。ことばは、君たちがどのやうな学科を学ぶにも、又、世の中に出て、大事な用をはたすにも、なくてはならない大切なものです。人の書いたものが正しく理解されなかつたり、自分の書いたものが誤解されたりしたのでは、知識を得ることも、用事をはたすことも出来ません。ことばは、そのやうな大切な役目を持つてゐるものです。そこでこれを大切にするには、どうしたならばよいかといへば、正しく読み、正しく書かねばならないといふことになるのです。そのためには、辞書の助も借りなければなりませんが、ことばの法則を知るといふことは、それと同じやうに、大切なことなのです。生徒 よく分りました。
本稿は、本誌第三巻第三号(昭和二十三年三月)の講読編の後を承けて、文法科の任務、目的及び文法教科書の編纂法とその学習指導について述べたものである。中等学校国語科に於ける文法科のありかたについては、既に本誌昭和二十二年九月特集号に、「中等文法」の解説と批判を述べた際に、触れたことであるが、今、その大要を再びここに掲げることとした。なお、右の「中等文法」の解説と批判に於いては、これを左のやうに、四項に分つて述べる計画を立てた。すなわち、(一)本書(以下中等文法を指す)成立の事情(二)文法と他の国語科諸科目との関係(三)本書の文法学説(四)現代かなづかいと本書の改訂の四項目であるが、その際には、第一、第二項目のみに止めて、第三、第四についてはこれに触れることが出来なかつた。引き続いて右の二項目について執筆するはずであつたが、中等文法の文法学説の批判については、拙著国語学原論中の第二篇第三章文法論を以てこれに代へることが出来るであらうと考へ、「現代かなづかい」との関係については、別に執筆する他の(註)機会があるであらうと考へたために、続稿することを怠つてゐたのであるが、やはり本書に即して、右の諸点について、述べることが適切であると考へたので、今回改めて右の稿を続けることとしたのである。
註 国語仮名づかひ改訂私案(国語と国文学、第二十五巻第三号)の中、第七項仮名づかひ改訂の方法に附説した。ちなみに、本稿の仮名づかひは、右の私案によることとした。そのために、故意に漢字をはずして、仮名としたところがある。