Chapter 1
この頃の寒さに足腰の痛みにわしは憶い出すんだ忰のことがやっぱり親子のつながりだわい
「お前等にもわかる時が来る」今になって彼奴の言葉が身に滲みてくる彼奴の云ったこと彼奴のやって来たことやっぱり貧乏人のやらねばならんことだったのだ
憶い出すと身震いがする彼奴の入営した翌年春の大争議にわしら四百の小作は××川の土堤で警官と軍隊に取り巻かれた鍬が飛んだ、石が飛んだ剣が抜かれたそしてわしまでしょっぴかれたんだ
地主小作の争いに軍隊が飛び出したあれから村が変って来たんだわしのあたまも嬶のあたまも警察は地主の犬幾どの争議でわし等は知ったそんだがわし等はたまげたまったくたまげて終うた軍隊も地主の犬――わし等は一時この世がどうなるかと思った
忰がいった秋の演習にビラを撒いて憲兵に捕まった時わしは彼奴と非呶い喧嘩をした「戦争反対」――ビラの文句にわしは嬶と一緒になってがなりつけた「いまにわかる時が来る」その時彼奴は悟を開いた禅坊主みたいに平気なつらで云ったっけなあ
実際にあったんだこの目でみたんだそして頑固な土百姓のあたまが悧巧になったんだわしを怒らした忰の言葉が役にたったんだ
全警察もわしらの敵全軍隊もわしらの敵だがわし等にも味方はあるそうだ、あの時かねば持って応援に来てくれた都会の労働者 あれこそがわし等の心強い味方なんだ
奴等の金儲けの為の戦争は大反対だ都会でも農村でもみんなやってる忰は満洲の野っ原でそれを弟の野郎も村の若い奴等とビラ貼りに出かけたわしも出かけよう今夜は組合の書記さんが来て**事件を語るそうだ新聞になど出ないほんとの話をするとのこと野郎共のからくりを知る為に忰達の便りを聞く為に疲れてはいるがわしも出かけよう。(『プロレタリア詩』一九三二年一月号に発表)
●図書カード