Chapter 1 of 45
青壺集(二)
郷にかへる歌并短歌
草枕旅のけにして、こがらしのはやも吹ければ、おもゝちを返り見はすと、たましきの京を出でゝ、天さかる夷の長路を、ひた行けど夕かたまけて、うす衾寒くながるゝ、鬼怒川に我行き立てば、なみ立てる桑のしげふは、岸のへになべても散りぬ、鮭捕りの舟のともしは、みなかみに乏しく照りぬ、たち喚ばひあまたもしつゝ、しばらくにわたりは超えて、麥おほす野の邊をくれば、皀莢のさやかにてれる、よひ月の明りのまにま、家つくとうれしきかもよ、森の見ゆらく、
短歌
太刀の尻さやに押してるよひ月の明りにくれば寒しこの夜は
人々のもとにおくりける歌
一いにしへのますら武夫も妹にこひ泣きこそ泣きけれその名は捨てず
世の中は足りて飽き足らず丈夫の名を立つべくは貧しきに如かず
二沖の浪あらし吹くとも蜑小舟おもふ浦には寄るといはずやも
葦邊行く船はなづまず沖浪のあらみたかみととりこやす
三
明治三十五年の秋あらし凄まじくふきすさびて大木あまた倒れたるのちさま/″\の樹木に返りざきせしころ筑波嶺のおもてに人をたづねてあつきもてなしをうけてほどへてよみてやりける歌
いづへにか蕗はおひける棕櫚の葉に枇杷の花散るあたりなるらし
苦きもの否にはあれど羹にゝがくうまけき蕗の薹よろし
くゝたちの蕗の小苞ひた掩ひきのおもしろき蕗の小苞
秋まけて花さく梨の二たびも我行けりせば韮は伐りこそ
明治三十五年秋十月十六日、常毛二州の境に峙つ國見山に登りてよめる歌二首
茨城は狹野にはあれど國見嶺に登りて見れば稻田廣國
國尻のこの行き逢ひの眞秀處にぞ國見が嶺ろは聳え立ちける