Chapter 1 of 9
鼻観外道
「この話の面白さに比べると、失礼だが今まで語られた奇談は物の数でもない、――と言うと、アラビアン・ナイトのお妃の極り文句のようですが、私は全くそう信じ切って居るのです」
奇談クラブの集合室で、話の競技の第五番目に選手として立った春藤薫は、十三人の会員達の好奇に燃ゆる顔を見渡し乍ら、斯う言った調子で始めました。まだ若々しい癖に、白襟に十徳見たいな被布を羽織った、妙に物越しの滑らかな、茶の湯か俳諧の宗匠と言った人体です。
「私は反魂香の話をしようと思います。或る種の香を焚くと、思う人の俤が目の前に現れるという、あの反魂香です。種を明かせば此の話は『楚弓夜話』という香道の邪宗門の経典とも言うべき秘冊から見付け出した筋で、私や私の祖先の経験ではありません。香道というものは、今は殆んど廃りましたが、昔はどんなに盛んだったかということも、いくらか此の話でわかるわけであります。前置きは此の位にして、早速話の本筋に取りかかりましょう」
春藤薫の話はその風采の如く変って居りますが、何がなし、異様な匂いがあるので、好奇心ではお互に引けを取らない会員達は、固唾を呑んで次の言葉を待ちました。