Chapter 1 of 10

名人大六雲鼎

「人形の首を梟した、――という話、気味は悪いが、充分に面白い積りです」

第六番目に立った話の選手大滝左馬太は、奇談クラブの談話室で、斯う話し始めました。

「これも今の世の事ではありません。天保十一年の晩春、十一代将軍家斉の治下で、江戸の風物は熟れた果物のように、甘酢ぱく頽廃し切った時のこと、私の為には流祖、人形師としては、古今の名人と言われた松本鯛六――一名大六雲鼎は、鑿一挺で大変なものを拵えてしまったのです。これはとても小説になるような話ではありませんが、その代り事実は小説よりも奇なりで、こんな馬鹿馬鹿しい話は、小説家の頭ではとても考え出されません。名人大六雲鼎や、華魁小紫の霊を慰める為に、是非聴いてやって下さい」

大滝左馬太は斯んな調子で始めて行きます。

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