長谷川時雨
長谷川時雨 · Japanese
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長谷川時雨 · Japanese
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Original (Japanese)
田沢稲船 長谷川時雨 一 赤と黄と、緑青が、白を溶いた絵の具皿のなかで、流れあって、虹のように見えたり、彩雲のように混じたりするのを、 「あら、これ――」 絵の具皿を持っていた娘は呼んだ。 「山田美妙斎の『蝴蝶』のようだわ。」 乙姫さんの竜の都からくる春の潮の、海洋の霞が娘の目に来た。 山田美妙斎は、尾崎紅葉、川上眉山たちと共に、硯友社を創立したところの眉毛美しいといわれた文人で、言文一致でものを書きはじめ『国民の友』へ掲載した「蝴蝶」は、いろいろの意味で評判が高かったのだ。 源平屋島の戦いに、御座船をはじめ、兵船もその他も海に沈みはてたとき、やんごとなき御女性に仕えていた蝴蝶という若い女も、一たん海の底に沈んだが、思いがけず、なぎさに打上げられた。それは春の日のことで、霞める浦輪には、寄せる白波のざわざわという音ばかり、磯の小貝は花のように光っている閑かさだった。見る人もなしと、思いがけなく生を得た蝴蝶は、全裸になった――そのあたりを思いだしたのだ。 「あたし、小説を書こう。」 十七の娘、田沢錦子は、薬指ににじむ、五彩の色をじっと見ながら、自分にいった。 空はまっ青で、流れる水はふく
長谷川時雨
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