Chapter 1 of 5

夏に先立つて、村の會堂の廣場には辛夷の木に眞白い花が咲く。まだ會堂に閉されてゐて、その花の咲いてゐる間、よくその木のまはりで村の子供たちが日曜日など愉しさうに遊んでゐる。その花が散つて、すつかり青葉になつた頃、その村に夏を過しに來た人々がその會堂に出たりはひつたりしはじめる。

その頃から、こんどは村の古いホテルの裏の塀に沿つて、村で一番美しいと云はれるさるすべりの木がこれも眞白い花を咲かせる。ホテルではその木を昔からホテルのだと云ひ、その木と道ひとつ隔てた便利屋では昔から自分の家のだと云ひ張つて、雙方讓り合はうとしないものだから、もう十年ばかりもホテルの塀の外に、便利屋の鼻つ先きに、どつちつかずの目立たない場所に、村でも一番美しいさるすべりの木だのに人々からもあまり氣づかれずに、そのためかへつて一層そのつつましい美しさを増させながら、いつも夏のはじめになると咲き續けてゐた……。

Chapter 1 of 5