Chapter 1 of 4
忘れる
「暑さ、涼しさの話。」
おや/\、もう夏なのか!
僕は忘れてゐた。――それで、壁の鏡をのぞいて見ると僕の額は玉の汗だ。なるほど僕は薄いシヤツ一枚だ、白いパンツだ。いつ頃僕はこんな身なりに着換へてゐたことか?
この机の一輪ざしには桃の花が活けてある。だから僕は、未だ、夏になつてゐるとも思はなかつた、誰が活けたものなのか知らないが、何時にも窓をあけることもなしに、煙草を喫しながら時折眼をそゝいでゐた花だ。
だが、今はじめて、仔細にみると、何だ! これは造り花か! 蜘蛛の巣が張つてゐるではないか、馬鹿々々しい。
棄てゝしまへ!
そして窓をあけて見よう。