Chapter 1 of 1

Chapter 1

外から砂鉄の臭ひを持つて来る海際の午後。

象の戯れるやうな濤の呻吟は

畳の上に横へる身体を

分解しようと揉んでまはる。

私は或日珍しくもない原素に成つて

重いメランコリイの底へ沈んでしまふであらう。

えたいの知れぬ此のひと時の衰へよ、

身動きもできない痺れが

筋肉のあたりを延びてゆく……

限りない物思ひのあるやうな、空しさ。

鑠ける光線に続がれて

目まぐるしい蝿のひと群が旋る。

私は或日、砂地の影へ身を潜めて

水月のやうに音もなく鎔け入るであらう。

太陽は紅いイリュウジョンを夢みてゐる、

私は不思議な役割をつとめてるのではないか。

無花果樹の陰の籐椅子や、

まいまいつむりの脆い殻のあたりへ

私は蝿の群となつて舞ひに行く。

壁の廻りの紛れ易い模様にも

ちよつと臀を突き出して止つて見た。

窓の下に死にゆくやうな尨犬よ。

私はいつしかその上で渦巻き初める、

………………

………………

砂鉄の臭ひの懶いひとすぢ。

●図書カード

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