Chapter 1 of 1

Chapter 1

沙羅の花

芥川龍之介

沙羅木は植物園にもあるべし。わが見しは或人の庭なりけり。玉の如き花のにほへるもとには太湖石と呼べる石もありしを、今はた如何になりはてけむ、わが知れる人さへ風のたよりにただありとのみ聞えつつ。

また立ちかへる水無月の

歎きをたれにかたるべき。

沙羅のみづ枝に花さけば、

かなしき人の目ぞ見ゆる。

(大正十四年五月)

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