Chapter 1 of 31

お母さま

こどものとき 一休さんは、千菊丸という なまえでした。

ある はるの日の ことです。千菊丸は うばに つれられて きよみずでらに おまいりに いきました。

おてらの にわは さくらの 花が まんかいでした。

はらはらと ちる さくらの はなびらの したでは、おばあさんや お母さんに つれられた 子どもたちが、あそびたわむれています。

「きれいだなあ ばあや。」

しばらく 花に みとれていた 千菊丸は、ふと、むこうの いしだんの ところに いる おや子づれの こじきを みて、ふしぎそうに たちどまりました。

きたない きものを きた こじきの 母おやが、五つか六つぐらいの 子どもを そばに すわらせて、おもちゃを やっているのでした。

やがて 千菊丸は うばの 手を ひいて、たずねました。

「ばあや、あれなあに。」

「おや子の こじきです。まずしいので さんけいの 人に ものを もらって たべているのです。」

「そうじゃあないの、ばあや、千菊は あの おんなの こじきは あの 子どもの なんじゃと きいているのだよ。」

「あれは、お母さんと 子どもです。」

「ふうーん。」

と、千菊丸は いかにも ふしぎそうです。

「こじきにも お母さまが あるの、ばあや。」

「はい。こじきにも お母さまが いますよ、千菊さま。」

「ふしぎだ なあ。」

千菊丸は かわいい くびを かしげて、しばらく じっとして いましたが、

「あんな きたない こじきにも お母さまが あるのに、千菊に  どうして お母さまが ないのだろう。ばあや、どうして 千菊には お母さまが ないの。」

と、ばあやの 手を ぎゅっと にぎりしめて いいました。

「ええ、千菊さまには……千菊さまには……。」

うばは、はたと こたえに つまって しまいました。

と いうのは、つぎの ような ふかい わけが あるからでした。

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