Chapter 1
A 『君此の頃ね僕の家では兄さんとお父さんが一生懸命に議員選挙のことに就いてばかり話をしてゐるよ、僕はよく知らないけれども××さんと○○さんはどつちがいゝのだい』B 『僕もよくは知らないけれど僕の父さんの話だと××さんの方がいゝのださうだ。
○○さんは随分もう金をつかつたつて話だよ、それにくらべると××さんはえらいね、お金なんかそんなに使はずに運動するんだとさ』
A 『君、お金つて――そんなに選挙にはお金がかゝるのかい』B 『あゝさうさ、君は知らないのかい。だから議員にはお金のある人でなくてはなれないのだ』A 『だつて変だねえ、誰でもなれるんぢやないのかい。僕はまたお金のない人でも選挙されさいすれば議員になれるんだと思つたよ。何時か僕の聞いた話とはずつと違ふんだねえ』B 『どう云ふ風に違ふんだい』A 『君は何故議員をえらぶんだか知らないのかい』B 『知つてるよ、いろんな会議をするのに皆さう大ぜい出られないから総代をえらぶんだらう、それが議員さ』A 『あゝさうさ、だから皆のすきな人がなるんだらう、丁度僕等が級長だの委員だのを選挙するのと同じだつて何時か先生が云つたぜ、だけど何にそんなにお金が入るのだらう』B 『あゝそのことは僕も不思議なんだ、この間僕きいたらば運動費だつてそいつだよ運動費つて何だらうな、君知つてるかい』A 『僕もしらない、だけど運動と云ふことは知つてるよ、僕のお父さんは運動してゐるのだもの何でもね、方々の家をたづねて誰さんを選挙して下さいと頼むのだね』B 『頼むのかい? それが運動かい、そんならそのたのむのにお金がかゝるのだね、きつと運動費つて云ふんだもの、そうだね、きつと』A 『あゝさうかもしれない、だけど君、自分のことを選挙して下さいつてたのむのは随分変だねえ』B 『僕もそう思ふよ、男らしくないねえ、僕ならそんな頼んで来る奴なんか選挙してやらないと思ふよ、本当にえらい人なら黙つてたつて選挙してやるねえ』A 『僕だつてさうだ、誰が頼んで来る奴なんか選挙してやるもんか』B 『君、だけど大人つて随分変だねえ、僕等級長にして呉なんて、委員に選挙して呉なんて、大さはぎする者なんかないねえ』A 『さうさ、だけど大人にはいろ/\僕等には分らない理屈が有から――』[『微光』第四号、一九一五年一月]
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