Chapter 1 of 1

Chapter 1

二月半ばのそら、

酒室の呼吸を罩めて、風、

あまし、温かし

円ろかなるこの穹き

懐ろに、音もなく

彩雲ぞ、さすらふなる。

機おる遠き麓のむら村、

ゆるくゆるく、筏の昔幽かに

声音なし、幻の静けさに、たえなる夢を織れるか、

雲にそゝぎ入る恍惚、炊ぐ煙りの

直しき細流、君よとく、来らずや、

この身さみし。

水豊かに遠く連りて、

田を限る畔、唯見る目覚む一色に、

何をするぞ無言の二人、

さても黙然とうづくまりて、青光の鎌の刃に

さくさくと、草葉の重き寝りの上、

白蝋の手に湧くか緑葉は。

籠に緑児はねむり、すやすやと、

沈黙の雫を吸ふ。さくさくと実にさくさくと、

微かに愛しき囁きの忍び寄りて、

童子が朱唇をゆすれば、声は響きを呼び

響きは声を生み、激しき感激のきはみ、

天地一心になりをひそむ。

純なる童子が節調に、快き眠りぞ襲ひ来りて、

魂の蕩け入るけはひなる。あゝ気は澄みたり

固なつぼみを秘めし我が胸裡

ふるゝ心は温かし。

あはれやがて消えなんとする、思ひ出の果、

燻銀の微光澱める、遠き岬に夕陽が赤し。

●図書カード

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