Chapter 1 of 28

もうひとりの少年

東京の銀座に大きな店をもち、宝石王といわれている玉村宝石店の主人、玉村銀之助さんのすまいは、渋谷区のしずかなやしき町にありました。

玉村さんの家庭には、奥さんと、ふたりの子どもがあります。ねえさんは光子といって高校一年生、弟は銀一といって中学一年生です。

あるとき、その玉村銀一君の身の上に、じつにふしぎなことがおこりました。それがこのお話の出発点になるのです。

その夜、玉村君は、松井君、吉田君という、ふたりの友だちと、渋谷の大東映画館で、日本もののスリラー映画を見ていました。

それは大東映画会社の東京撮影所で作られたもので、映画の中に、ときどき、東京の町があらわれるのです。

「あっ、渋谷駅だっ。ハチ公がいる。」

松井君が、おもわず口に出していいました。それはおっかけの場面で、にげる悪者、追跡する刑事、カメラがそれをズーッとおっていくのですが、そこへ駅前の人通りがうつり、ハチ公の銅像も、画面にはいったのです。

「あらっ、玉村君、きみがいるよ。ほら、ハチ公のむこうに、やあ、へんな顔して、笑ってらあ。」

吉田君が、とんきょうな声をたてたので、まわりの観客が、みんなこちらをむいて、「シーッ。」といいました。

玉村君は、スクリーンの上の自分の姿を見て、へんな気がしました。ハチ公の銅像のうしろから、こちらをのぞいて、にやにや笑っている自分の顔、それが一メートルほどに、大きくうつっているのです。

それがうつったのは、たった十秒ぐらいですが、たしかに自分の顔にちがいありません。玉村君は、ここにうつっているのは、いつのことだろうと考えてみました。

「おやっ、へんだな。ぼくは渋谷駅で、映画のロケーションなんか見たことは、一度もないぞ。」

いくら考えても、おもいだせません。知らないうちに、うつされてしまったのでしょうか。まさか、ロケーションに気づかないはずはありません。

そのばんは、うちにかえって、ベッドにはいってからも、それが気になって、なかなかねむれませんでした。

あれは、自分によくにた少年かもしれないとおもいましたが、しかし、あんなにそっくりの少年が、ほかにあろうとは考えられないではありませんか。

玉村君は、なんだか心配になってきました。自分とそっくりの人間が、どこかにいるとしたら、これはおそろしいことです。

それから一週間ほどたった、ある日のこと、玉村君の心配したことが、じつに気味のわるい形で、あらわれてきました。

玉村君と松井君とは、明智探偵事務所の小林少年を団長とする、少年探偵団の団員でした。ですから、ふたりはたいへんなかよしで、どこかへいくときは、たいてい、いっしょでした。

その松井君が、ある日、学校がおわってから、玉村君をひきとめて、校庭のすみの土手にもたれて、へんなことをいいだしました。

「玉村君、ぼく、すっかり見ちゃったよ。きみは秘密をもっているだろう。」

「秘密なんかないよ。どうしてさ。」

玉村君は、ふしんらしく、聞きかえしました。

「きみのうちは、お金持ちだろう。お金持ちのくせに、スリなんかはたらくことはないじゃないか。」

ますます、みょうなことをいいます。

「えっ、スリだって?」

「そうだよ。ぼくはすっかり見ちゃったんだよ。」

「ぼくがかい? ぼくがスリをやったって?」

玉村君はびっくりしてしまいました。

「ほら、八幡さまの石がき……。あの石がきの石が、一つだけ、ぬけるようになっているんだ。きみはその石のうしろに、からの紙入れを、たくさん、かくしたじゃないか。」

「なにをいっているんだ。ぼくにはちっともわからないね。もっとくわしく話してごらん。」

玉村君は、あまりのいいがかりに、腹がたって、おもわず、つよい声でいいました。

「じゃあ、くわしく話すよ。」

松井君は、ゆうべのできごとを、はなしはじめました。

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