一
うみぼうずは しょうたいの わからない おばけです。
まっくろな からだを して、海の そこに すみ、きかんぼうずで わがままかってに ふるまって います。
だから、みんなから きらわれて います。なにか 気に いらない ことが あると、あばれまわります。海の 水を まきあげ、くろくもを おこし、つなみを たて、あたりを さわがせます。
さかなや、海に すむ けものたちは、いきの ねを ひそめて、小さく なります。もし そんな とき、ちょうど、ふねでも きかかろうものなら、たいへんです。
「やい、おれさまの いるのが わからぬか。」
と、うみぼうずは 大きな 手で、ふねを たかく もちあげ、あっと いう まに、海の そこに しずめて しまいます。けれど、だれも それを とめる ことが できません。
「また、むほうものの うみぼうずが さわぎだした。こまった ものですね。」
と、りゅうぐうの ごてんに すむ おひめさまは、まゆを おひそめに なりました。
大きな くじらまで、
「これは かなわん。」
と いって、どこかへ にげだしました。
たいや いかや いわしなどの 小さい さかなたちは、なみに もまれて、目を まわして いました。
「おひめさま、どうぞ おたすけください。」
と、ごもんの ところへ あつまりました。どんなに つよい かみさまも 手が つけられないし、こういう ときは、やさしい おひめさまの お力に たよるより ほかに、しかたの ないのを、よく しって いたからです。
「すこしの あいだ おまちなさい。」
と、おひめさまは おっしゃいました。
うみぼうずは、ところきらわず あばれまわった ものだから、だんだん つかれて きました。
この とき、どこからとも なく、いい おんがくが きこえて きました。