Chapter 1 of 1

Chapter 1

赤ちゃんは、お母さんのお乳にすがりついて、うまそうに、のんでいました。

それをさもうらやましそうにして、五つになったお兄さんと、七つになったお姉さんとがながめていました。

兄さんは、ついに我慢がしきれなくなったとみえて、お母さんのお乳に、小さな手をかけようとしました。すると、赤ちゃんは、顔を真っ赤にして、かわいらしい頭をふって、さわってはいけないといって怒りました。

「よし、よし、お兄さん、おっぱいにさわってはいけませんよ。これは、赤ちゃんのお乳ですから。」と、お母さんは、笑いながらいわれました。

お姉さんも、またお兄さんも、笑いましたが、お兄さんは、なんとなくさびしそうでした。そして、お母さんに向かって、

「お母さん、赤ちゃんは、いじわるですねえ。」といいました。

「坊やも、赤ちゃんの時分は、やはりおなじだったのだよ。」

「お母さん、僕もこんなに、いじわるだったの?」

「赤ちゃんが生まれるまでは、坊やが、毎日こうして、母さんのおっぱいにぶらさがっていたの。そしてお姉ちゃんが手を出そうものなら、やはり、こうして顔を真っ赤にして怒ったの……。このお乳のまわりには、みんなの唇の跡が、数かぎりなくついているのです。」と、お母さんはいわれました。

このお話を聞くと、お姉さんも、そうであったかというように、かわいらしい目を輝かしました。

しかし、お姉さんも、お兄さんも、そんなにして毎日飲んだ、お乳の味を忘れてしまって、ただお乳を見ると恋しいばかり。赤ちゃんだけが、お乳の味を知っていました。

●図書カード

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