Chapter 1 of 4
一
独り、道を歩きながら、考えるともなく寂しい景色が目の前に浮んで来て胸に痛みを覚えるのが常である。秋の夕暮の杜の景色や、冬枯野辺の景色や、なんでも沈鬱な景色が幻のように見えるかと思うと遽ち消えてしまう。
消えてしまった後は、いつも惘として考えるのである。なんでこんな景色が目に見えるのであろう。誰のことを自分は思っているのか? 気に留めて考えれば空漠として、悲しくも、喜ばしくもないが、静かに落付ていると胸の底から細い、悲しい、囁きのように、痛むともなく痛みを覚えて、沈鬱な寂寞たる夕暮の田園の景色などが瞭々と目の前に浮んで来る。
ああ、自分はなぜこんなに悲しい気になるのであろうか。もうもう彼女のことは思い切っているのにと自から心を励ますけれど、熱い涙が知らずにぽたぽたと落ちる。物の哀れはこれよりぞ知るとよく言ったものだ。自分は曾て雑司ヶ谷の鬼子母神に参詣して御鬮を引いたこともあったが……やはり行末のことや、はかない恋をそれとも知らなかったからである――この道を行けば、やがて鬼子母神の境内に出るのだが、もう草は枯れている。圃のものも黄ばんでしまった。なんだか斯う、彼女の面影が目に見えて来る。そういえばこの道を去る秋、共に通ったことがあったのである。
ああ、もうもう思うまい思うまい、悲しいんだやら、こう気が焦ってくるばかりで、やはりこれが悲しいんであろう。涙が知らずに湧いて来る。
どれ、ハーン先生の墓にでも詣ろう。……