Chapter 1 of 1

Chapter 1

夏休みの間のことでありました。

がき大将の真坊は、先にたって、寺のひさしに巣をかけたすずめばちを退治にゆきました。

「いいかい、一、二、三で、みんないっしょに石を投げるのだよ、うまく命中したものが偉いのだから。」と、いいました。みんなは、目をまるくして真坊のいうことを聞いていました。

「はちが追いかけてくると、こわいな。」と、臆病な常ちゃんが、いいました。

「追いかけてきたら、竹の葉でたたき落とそうよ。」と、真坊が、いいました。

「ああ、それがいいね。」と、英ちゃんが、同意しました。

「みんなが、竹やぶへいって、竹を切ってこようや。」と、誠くんが、いいました。

「ああ、竹を切ってこよう。」

四、五人の子供たちは、寺の竹やぶへ竹を切りにゆきました。やがて、てんでに、手ごろの青々とした、葉のついている竹を切ったり、折ったりしてきました。

「さあ、これでいい。」

そういって、みんなは、往来で石を拾って、お寺の境内へ引き返してゆきました。

「だれが、号令をかけるの?」と、誠くんが、いいました。

「まあ、待ちたまえ、僕は、それはうまいから、ひとつうまくあの巣に当ててみせようか?」と、真坊が、いいました。

原っぱで、野球をするときに、ピッチャーをしている真坊のいうことを、みんなは、だまって聞きながら、承認しなければなりませんでした。

「命中さしてごらん。」と、みんなは、手に石を握ったまま、真坊のするのを見ていました。

真坊は、ボールを投げるときのように、片足を揚げて、高いひさしにかかっている、円いはちの巣をねらって石を投げました。石は、まっすぐにひじょうなスピードをもって、うなっていったが、巣をはずれて、ひさしの板に当たると、大きな音をたててはね返りました。

この音が、あまり大きかったので、みんなはびっくりして、そこから、門の方に向かって逃げ出しました。

「真ちゃん、だめじゃないか、こんど僕がうまく命中してみせるよ。」と、英ちゃんが、いいました。

「ああ、みんなが一度ずつやってみようよ。そして当たらなかったら、一、二、三で、いっしょに投げることにしよう。」と、真坊が、意見を持ち出しました。だれも、がき大将の意見に反対するものがありません。

「さあ、英ちゃん、うまくお当てよ。」と、ほかの子供たちは、英ちゃんをはげましました。英ちゃんは石を握って、足音をしのんで境内へ入ってゆきました。そして、上を見て石を投げました。石は、太い柱に当たって、足もとへはね返って落ちたので、あわてて逃げてきました。

「こんど、誠くんだ!」

やはり、石は、うまく当たりませんでした。最後にいちばん臆病な常ちゃんでした。もとより、うまく当たりっこがありません。

「さあ、みんなが、いっしょに投げるのだよ。」と、真坊は、いって、

「一、二、三っ。」と、号令をかけました。

石は、散弾のように、はちの巣を目あてに飛んでいって、ばらばらと当たりに当たって、大きな音がしました。

すると、同時に、

「だれだ!」と、大きなどなり声がして、庫裏の方から、和尚さまが飛び出してくるけはいがしました。

みんなは、大急ぎで、首をすくめて逃げてきました。

「明日、ラジオ体操にゆくと、和尚さまにしかられるかもしれない。」と、常ちゃんがいいました。村では、毎朝みんなが寺の境内に集まって、ラジオ体操をすることになっていました。

「わかりはしないや。」と、英ちゃんが、いいました。

「しかられたって、こわくないね。真ちゃん。」と、誠くんが、真坊の考えをききました。真坊は、にやり、にやりと、だまって笑っていました。彼は、このあいだから、一人で、はちの巣に向かって石を投げていたからであります。

「いいよ、しかられたら、僕だとおいいよ。」と、真坊が、いいました。

「真ちゃん、しかられたっていいのかい。」と、ほかの子供たちが、ききました。

「僕は、ゆかないから。」と、真坊が、いいました。

「真ちゃん、ラジオ体操にゆかないの? 休まずにいくと、ご褒美がもらえるのだよ。」と、常ちゃんが、いいました。

明くる日、ラジオ体操に真坊の姿は見えませんでした。もう二、三日で、終わりになるのです。

ところが、いちばん最後の日に、真坊は、やってきました。友だちは、しばらく見なかった真坊がきたので、そばへ寄ってきて、

「真ちゃん、どうしたんだい。ご褒美は、昨日みんながもらったんだよ。」と、いいました。

「メダル?」と、真坊は、つまらなそうな顔つきをしました。

「ううん、ミルクキャラメル。」

「キャラメルなら、ほしくないや。」と、真坊は、にやりと笑いました。そして、体操が終わって、帰るときです。どこから出てきたか和尚さまが、

「こら、真坊! おまえのはここにある。」と、いって、ミルクキャラメルを下さって、真坊の頭をくるくるとなでられました。

このとき、真坊は、和尚さまの厚意をうれしく思って、この後、はちの巣に石を投げまいと心に誓ったのであります。

●図書カード

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