Chapter 1 of 4
Chapter 1
生れるときに自分の將來の仕事を考えるものは無いが、それでも若いときから一生の目的を考えるものだ。ところが私は若いときはもとよりのこと、中年になつても老年になつても夢にも思わなかつた圖書館人と言うものに六十歳を超えてからなつた。業平朝臣の言いぐさではないが「忘れては夢かとぞ思う思いきや」であり雪は踏みわけないが毎日圖書館を見て喜び眺めているのだ。
私の管理している圖書館は舊赤坂離宮である。玄關を入つて自分の室まで行く間はやゝ長い廊下を通るのだ。一人當り疊二疊に足らぬ賤が伏屋を立ち出でゝ毎日出勤すると、この廊下を歩く數分間に一種の心のゆとりが起る、その數分間が圖書館について自責心の最も起るときである。また毎日退廳のときにもこの廊下を通るがその時一日の經過を顧みてホッと息をつきつゝやはり一種の自責心が起るのだ。つまり直接仕事に心を占領されていない時にはこのやるせない惱が生ずるのだ。素人のくせによくも平氣でやつて居れるな、そしておまえはこの圖書館をどんな風に發展させて行くのか、第一圖書館とは何であるのかを知つているか等々。