Chapter 1 of 13
白良
昭和九年八月中旬、台湾巡歴の帰途、神戸に迎へたる妻子と共に紀州白良温泉に遊ぶ。滞在数日。
白良
白良の浜に遊びて
白良の ましららの浜、まことしろきかも。驚くと、我が見ると、まことしろきかも。踏みさくみ、手ぐさとり、あなあはれ、まことしろきかも。子らと来て、足投げて、膝くみて、ただにしろきかも。白良の ましららの浜、松が根も、渚べも、日おもても、ただにしろきかも。あなあはれ、目に霧りて、火気だちて、しろきかもや、しろきかもや、立ちても居ても。
おなじく
ましららの白良の浜はまことしろきかも敷きなべて真砂も玉もまことしろきかも 旋頭歌一首
また
ましららのまこと白浜照る玉のかがよふ玉の踏み処知らなく
まことにもしろき浜びや足つけて踏みさくみ熱き真砂照る玉
音絶えてかがよふ砂浜ましろくぞ白良のま玉火気澄みつつ
昼渚
松が枝の疎き鱗に照るさへや真砂は暑し吹きあげの玉
女童の脛の柔毛につく砂のしろき真砂は光りつつあり
浜木綿は花のかむりの立ち枯れてそこらただ暑し日ざかりの砂
浜木綿を、また
牟婁と言へば葉叢高茎百重なす浜木綿の花はうべやこの花
紀の海牟婁の渚に群れ生ふる浜木綿の花過ぎにけるかも
糸しだり花過ぎ方の浜木綿は影おだしけれ火照る夕波
崎の湯二趣
崎の湯は湯室の庇四端反り夕凪にあるか入江向ひに
牟婁の崎荒き石湯に女童居りて大わだの西日ただに明かり
夜景
浜木綿に湯室の灯映りゐて真砂踏み来る足音絶えぬ
短夜
短夜の白良の浜に来寄る波燈籠にまくわ苧がらなどをあはれ
白良荘起臥
朝ながめ夕ありきして牟婁の津や白良の浜に玉をめでつつ
玉ひろふ子らと交らひ牟婁の崎白良の浜に七夜寝にける
砂いくつ畳にひろふ起臥も早やすずしかり唐紙のべしむ